第37話 どんな相手だ

 交流戦当日、アナスタシアさんがアドバイスをしてくれるために、わざわざ炎のダンジョンまで来てくれた。


「今日探索するダンジョンマスターだが、実はあまり評判がよくない」


「評判がよくない? もしかして何か悪い噂でもあるんですか?」


「前にダンジョンマスターには流派があると説明しただろう? 今日の相手であるクアーク家は流派で言えば、そもそもボス部屋まで簡単にたどり着かせないことを得意にしている。罠や地形などがそれにあたるな」


「なるほど、分かりました。どんな罠があるか分からないから慎重に行けということですね」


「それもあるが、クアーク家には黒い噂もあってだな、他のダンジョンマスターが作ったダンジョンを荒らすといった行為を、故意にしているのではないか等の疑惑があるんだ」


「故意に荒らす、ですか。それは他のダンジョンマスターの評判を落とすためでしょうか?」


「おそらくはそうだろうな。もしかしたら初心者狩りも、クアーク家が挫折した冒険者を買収して指示しているんじゃないかという話さえあるんだ」


「初心者狩りか。なんだか懐かしいですね。その話を聞いた後なら、ここは初心者狩りの標的にされているから、近づかないほうがいいって話を広めることが目的だったんじゃないかと思えます」


「そうだろう? そしてその分クアーク家のダンジョンにたくさんの冒険者が流れてくるように仕向けて、入場料を稼ごうとしているのだろう」


 なんか日本でも起きてそうな話だなあ。一応聞いてみたけど、俺達が作った初心者ダンジョンに現れた奴は、正真正銘の野良初心者狩りだったそうで単なる八つ当たりだった。


「まったく! 確かに入場料は貰うがそれは運営のためだけの最低限の金額であって、金儲けが目的ではないんだぞ! 冒険者の一人たりとも命を落とすことが無いようにしたいというのが、我々ダンジョンマスターの願いなんだ!」


 これは俺もアナスタシアさんに賛成だ。自ら志願して天然ダンジョンの探索という危険なことをしてくれている冒険者。そんな人達を金儲けの道具として使うなんて、俺でもできないぞ。というかやろうとも思わない。


「国が取り締まったりはしないんですか?」


「もちろん認識はしているだろうが、クアーク家もまた数少ないダンジョンマスターの家系だからな。これまでに貢献してきたことも事実なんだ。それに証拠が無いことには動けない」


 なんともデリケートな問題だな。異世界でのことだし、俺が心配しても始まらないか。


「そんなわけだから、探索する時は十分に注意するようにな。どんな汚い手を使ってくるか分からない。ああ、それは貴様も同じか。だったら思考回路は同じだろう。逆に安心だ」


 一言多いよくっころ姉さん。士気を下げるようなことを言うんじゃないよ、俺のせいだけど。


「大丈夫ですよ、俺が実際に探索するわけじゃないですからね」


 そうだ、実際に探索するのはお互いダンジョンマスターの基本スキルで作り出したキャラクターなんだ。だから生身の人間じゃない。

 でもとんでもなくリアルで、とても作り物だとは思えない。実際、初心者狩りもターゲットになっていた冒険者も気が付かなかった。


 本来はテストの時にしか使わないスキルらしい。そして一般には非公表のスキル。さすがに国の偉い人は知ってるだろうけど。


 生身の人間が探索しない理由は、残虐シーンを映さないためらしい。そりゃそうだ、生中継なんだからもしそんなことになれば、見ている人にトラウマを植え付けてしまう。


 その点『キャラクター』なら死なない。致死ダメージを受けても見た目は無傷に見せることだってできるだろう。


 そして交流戦の時間がやってきた。俺とエリンは二画面でその様子を見守る。一つは相手のダンジョンを探索する用の画面。

 そしてもう一つは通信魔法で中継されている画面を映したもの。


(なんかコメント欄みたいなのがあるんだけど……)


 おいおいマジかよ、生配信みたいじゃないか。まだ何も表示されてはないけど、始まったら多分いろいろ書かれるんだろうなあ……。


 俺はそこまで詳しいわけじゃないけど、異世界でも日本と同じような文化ができていることがちょっと面白い。


 国の偉い人の挨拶が終わり、リーンベル家とクアーク家の代表者が握手を交わす。リーンベル家はアナスタシアさん、クアーク家は人相の悪い若い男だ。いや、今の時代見た目をイジるのはNGか?


 そしていよいよスタートした。俺はコントローラーを握り気合いを入れる。

 クアーク家が作ったのは『氷のダンジョン』。事前に申告があったので耐氷属性の装備に設定した。武器は火属性だ。


 そんなことしてボスが火属性を吸収する奴だったらどうするか?

 いやいや、そんな悪いこと考えるのは俺しかいないでしょうー? それにモンスターのステータス変更は、エリンのマスタースキルだからこそできることなんだ。つまり俺とエリンのコンビは最強。


 コントローラーのスティックを前に倒して進む。が、どうにも違和感がある。

 それもそのはず、地面が氷のため操作を止めてもスーッと滑ってしまうんだ。


(早速やりやがったな。……いや、氷のダンジョンだからむしろ普通のことなのか?)


 どちらにしても油断しないほうがよさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る