第36話 イチャイチャしてるわけじゃないです

 いよいよ迎えた交流戦の日。といっても俺とエリンは現地に行くことはできないので、画面越しに観戦することになる。


「エリンは交流戦って見たことある?」


「ありますよ。私が子供の頃に家族みんなで応援に行って、すっごく楽しかったことを覚えています!」


「それって何年前のこと?」


「えーっと、私が10歳の時だから8年前ですね」


「その時は誰が作ったダンジョンで参加したんだ?」


「お姉様ですっ!」


 確かアナスタシアさんは今25歳だから、当時17歳ってことか。ということは剣聖のマスタースキルが覚醒する前ということになるな。


 当然アナスタシアさんもリーンベル家の長女として、立派なダンジョンマスターを目指していたに違いない。


 最近たまに聞く親ガチャってわけじゃないけど、いくらその家系に生まれたからって、未来が予め決められているってどうなんだろうな。でもそれを本人が幸せに感じているなら何も問題は無いか。


「その時はどんな感じだった?」


「その時はお姉様が初めて作ったダンジョンで参加していて、国王様をはじめ、観衆のみなさんがみんなお姉様を褒めていたことをよく覚えています。そんな光景を見て私は改めてお姉様はやっぱり凄いんだと思い、もっと大好きになったんですよ!」


 いつもそうだけど、お姉様について語るエリンは本当に嬉しそうで、そんなエリンを見ながら聞いている俺までもが嬉しくなる。


 あれかな、好きなことについて話す時だけはやたら饒舌じょうぜつになるのと一緒だな。……え、違う? 俺はそうなんだけど。


「じゃあ今日はエリンの凄さをみんなに知ってもらう番だな」


「そんな、私は何もしていませんよ! こうしてお姉様に認めてもらえたのもマスターのおかげです!」


「いやいや、俺なんてそれこそ何もしてなくてただ単にアイデアを出しただけで、それを余すことなく実行できたエリンのほうが何万倍も凄いから!」


「いえいえ! 私はこうして生活までお世話になっていますからっ!」


「いやいや! それについては俺の方がお世話になってるから! それにエリンのおかげで仕事も頑張れるし、何より家に帰る楽しみができたことが本当に嬉しいんだ。今まではただ食事と寝るためだけの場所になってしまっていたから」


「わかりました! それなら二人ともお互いに出会えて幸せということにしちゃいましょう!」


「そうだな、そうするか!」


 純真無垢とはエリンのためにある言葉なんじゃないかと思うほどに、エリンの笑顔には不思議な魅力がある。それは出会って間もないのにも関わらず、この子のためなら何でもしようと本心から思えるほどに。


 だから銀髪美少女と同棲だなんて激レアな経験をしているのに、変な気を起こそうなどとは全く思わない。


「私の見ているところでエリンを懐柔かいじゅうするとはいい度胸だな」


 俺達が作った炎のダンジョン内でさっきのやり取りを見ていたアナスタシアさんが、とんでもない誤解をしている。

 それにしても懐柔って、普段日常では使わない言葉だよな。それなのに俺はいつの間にその意味を知ったんだろう、不思議だ。


「懐柔は今すぐ取り消していただきたい。人聞きが悪すぎます」


「安心しろ、周りには私しかいないからな」


「そういうことじゃなくて、俺は別にエリンを従わせようとか思ってませんよ。それよりもどうしたんですか? もうすぐ時間なのにここに居ていいんですか?」


「エリンを激励するために来たんだ。あとついでに交流戦について教えておこうと思ってな」


「それならアナスタシアさんから事前に教えてもらいましたよ」


「それはまあそうなんだけどな」


 交流戦のルールを簡単にまとめるとこうだ。まず交流戦の目的はお互いのダンジョンの精査。流派の違うダンジョンマスターが作ったダンジョンをそれぞれの代表が探索して、その感想を述べるというもの。


 要するにお互いの良かったところ・悪かったところを正直に言い合って、一緒に成長していきましょうということだ。


 そして第三者の公平な視点の確保のため、国選パーティーも探索に参加するのだという。

 それは国王もダンジョンの出来栄えを見るということだ。つまり交流戦でいい結果を残すことができれば、エリンの知名度と評価が爆上がりする。


 さらに交流戦は通信魔法で中継されるそうで、毎回結構な視聴者数がいるらしい。その数は数千万人にも及ぶとか。冒険者はもちろんのことそれ以外の職業の人も、普段は見られないダンジョン内部が見られる数少ない機会だから、興味本位で見る人が多いそうだ。


 日本のテレビでも『あの製品の工場に潜入!』みたいな番組あるもんな。未知のものを知りたいと思う人がいるってことだ。


 国王や大勢の人を驚かせる。そうなればきっとエリンのお父さんも認めてくれるはずだ。


「それ以外に何かあるんですか?」


「そんな大したことじゃない。ちょっとしたアドバイスをだな」


「アドバイスですか? それは助かります。どんなことでしょうか?」


「今日探索するダンジョンマスターだが、実はあまり評判がよくない」


 うーん、なんだか面倒な予感がするな。

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