第33話 くっころ姉さん2
「くっ……! もうとっくに倒せていてもおかしくないのだが……! 弱点をついているのに……っ!」
剣聖姉さんの表情が曇り始める。それもそのはず、弱点属性で攻撃しているはずなのに、30分経ってもバーニングスライムは全く弱る気配が無いからだ。
炎のダンジョンのボス部屋にいる、全身を燃え盛る炎に包まれたモンスター。その弱点は氷属性だと誰もが思うだろう。
しかし実際は氷属性の攻撃を吸収する。もちろん火属性だって同じだ。
なので剣聖姉さんはさっきからずっとボスを回復させていることになる。すでにHPマックスなのに元気が限界突破しそうなバーニングスライムさん。剣聖姉さん、お疲れ様でっす!
「くっ……! 一体こいつの生命力はどれだけ計り知れないというのだ!」
剣聖姉さん、ハズレです。そいつはHPがバカ高いわけじゃなくて、ただ単にあなたの攻撃を全部吸収しているだけなんです。けどもちろんそれは教えません、頑張って!
もちろんこれはモンスターのステータスを自由に変更できるという、エリンのマスタースキルだからこそできることだ。
当然アイデアは俺。いかにも火属性な見た目なのに、氷属性の攻撃を吸収して回復するモンスターがいれば面白いなと思ったんだ。これは平然と嘘をつく上司を参考にした。
「さすがに魔力が少なくなってきたか……。仕方ない、ここからは通常攻撃でいくか。あまりやりたくはなかったのだが……」
これまで魔法で攻撃していた剣聖姉さんが右手に剣を構え、左手を開いて手のひらを天へと突き上げた。
そしてその手から何か光が放たれたかと思うと、次の瞬間にはボス部屋全体に大雨が降り注いだ。
当然剣聖姉さんはずぶ濡れ。腰あたりまである金髪ロングがベチャッと鎧に張り付き、可憐さが損なわれたかのように思える。
でもこれはこれでどこか憂いがあっていいかも? 美人姉妹だしな。
一方のバーニングスライムはというと、全身を包み込んでいた炎が消えて、真っ赤な本体が全身確認できる状態になっていた。
おいおいマジかよ。剣聖って雨を降らせることもできるのか。もうなんでもアリだな……。
エリンのマスタースキルでステータスは変えたけど、バーニングスライムを包んでいる炎まではさすがに変えられないだろう。というかそんな発想は無かった。
それを好機とみた剣聖姉さんは、すぐさまダッシュで距離を縮めると、剣で素早く斬りつけ始めた。何か技を繰り出しているようには見えず、おそらく手数を重視しての攻撃だろう。
なんとなく理由は想像できる。さっき氷属性魔法をぶつけた時、炎が消えた。でもまたすぐに炎が元に戻っていったんだ。
つまり炎が消えている時間には限りがある。だから素早く攻撃するため技を使わないという判断をしたんだろう。
「くっ……! まだか! まだ倒せないのか!」
姉さん、頑張るなぁ。氷属性の技でも魔法でもないから倒せそうなものなんだけど、今使ってる剣が氷に包まれていて、どう見ても氷属性なんだよなぁ。だから通常攻撃でもずっと回復させてるだけっていう。
「くっ! そろそろ時間か」
剣聖姉さんが攻撃の手を止めて、体の向きは変えずに後ろへと大きくジャンプした。それはおよそ常人のものではなく、何メートルも高く何メートルも後ろに移動するものだった。
その直後バーニングスライムから炎が吹き上がり、再び全身を包み込んだ。どうやら時間切れらしい。
仕切り直しかと思われたその時、バーニングスライムから泡のようなものが吐き出された。それは人ひとりをスッポリと包んでしまいそうな球体。それがあろうことか剣聖姉さんへと飛んでいく。
「あっ!?」
空中で体がうまくコントロールできないのか、疲れから来るものなのかは知らないけど、不意をつかれたらしい剣聖姉さんは、もろにその泡にぶつかられてしまった。
ドサッ! という音とともに地面に仰向けに倒れてしまった剣聖姉さん。しかも両手両足を広げた大の字。ここで俺は予感する。
「油断した……っ! 見てろ、今すぐ体勢を立て直してだな……!」
剣聖姉さんは起き上がろうとするが、思うようにいかない。なぜなら謎の水色の物体がネバネバと絡みつき、大の字のままの体勢を立て直すことを許していないからだ。
「なんだこれはっ!? 離せっ!」
そこにはずぶ濡れの状態で床に仰向けで大の字に倒れ、全身をネバネバしたものに絡みつかれ全く動けず、苦しそうな表情を浮かべる金髪美人お姉さんがいた。
「私はリーンベル家長女、アナスタシア・リーンベル! そして誇り高き剣聖! この程度で弱音を吐くものか!」
それはリーンベル家として、ダンジョンマスターとして、剣聖としての
「エリン! どんな時でもリーンベル家の誇りを忘れないようにするんだぞ! エリンにしかできないことだってきっとあるはずだ!」
「はいっ! お姉様!」
(ん? この流れ見たことあるような……?)
その後も剣聖姉さんはひとしきり暴れたが、その表情が曇るだけで体勢は全く変えられなかった。そしてゆっくりと口を開く……。
「くっ、殺せ!」
人生二度目の生くっころ。いやいや、諦めるの早すぎでしょ。
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