第31話 剣聖姉さんの勇姿

 俺監修、エリン作『炎のダンジョン』のテストプレイ。プレイヤーはもちろんアナスタシア剣聖お姉様だ。


「エリン、私はエリンのために頑張るからね。私の勇姿、見ててね」


 アナスタシアさんの頼もしいフラグ……いや、セリフとともに探索がスタートした。


 完成してから一応は俺自身でも探索はしてみた。もちろんエリンのダンジョンマスターの基本スキルで作ったキャラクターを、ゲームみたいにコントローラーで操作するという方法で。


 その時の装備は全てが対火属性のもの。予め炎のダンジョンだと分かってるんだから、ほぼ全員が同じことを考えるに違いない。

 もっとも「俺は縛りプレイが好きなんだ!」と言って、あえてそれらを一つも身に付けないという人もいるだろうけど。


 しかし自分で作ったダンジョンを自分で探索するというのは思った以上に退屈で、楽しむというよりはもはや点検作業といった感じだった。にじみ出る仕事感。


 ゲームにもいえるけど、やっぱりこういうのは誰かにプレイしてもらってこそ面白い。

 その人のリアクションを見ながら、ワイワイと盛り上がるのが理想的だな。


 まず最初にアナスタシアさんのリアクションがあったのは、分かれ道に来た時だった。


「ミカゲっ! どうせ見ているのだろう?」


 ミカゲ? あ、『御影みかげ』か。それが俺の名前だと気が付くのに数秒ほどかかった。俺、貴様呼びに慣れ始めてるじゃないか。いかんいかん。


「はい、見てますよ。なんでしょうか?」


「今回は看板が無いのだな?」


「そうですね、一つもありませんよ。いくら人工ダンジョンとはいえ、ダンジョンに看板があるなんておかしな話ですからね」


 以前に初心者ダンジョンを探索してもらった時、ボス部屋へのルートを示す看板を分かれ道に置いていたことがある。大嘘の看板も混ぜていたけど。当然アナスタシアさんから怒られて、全撤去に追い込まれた。


「まったく、よく言うな。あの時私が指摘していなければ、今もあのダンジョンは公開できていないぞ」


「お褒めいただき光栄です」


「褒めとらん!」


 剣聖様、すぐ怒るんだから。


 アナスタシアさんはその後も律儀に全ルートを回り、次にリアクションがあったのは宝箱の前だった。


「おい、これはどういうことだ?」


「宝箱ですよ」


「そんなことは分かっている! 私が聞いているのは宝箱がどうして燃えているのかということだ」


 アナスタシアさんの目の前には、燃えるような赤色の宝箱がある。大きさは横1メートル縦80センチくらい。宝箱一覧の中でも上位に入るほどの豪華な装飾のものを選んでおいた。

 ただ一つおかしな点、それは宝箱自体が炎に包まれているということ。


「ほら、あれですよ。モンスターにだって全身が炎で包まれている奴とかいるじゃないですか。だから燃えている宝箱があっても不思議じゃないと思うんです」


「私だってダンジョンマスターの家系だから分かるんだぞ。宝箱に鍵や罠をしかけることはできても、宝箱そのものを炎で包むなんてことができるわけない」


「いやー、一応エリンに聞いてみたら、できるかもってことだったので」


 そうなんだ、俺だってダメ元で聞いてみたら、なんかエリンができるかもって言い出して俺も驚いた。もしかしたらそれもマスタースキルの一種なのかもしれないな。


「なんだと!? エリン、それは本当なの?」


「はい、なんだかできちゃいました……!」


「エリン、もしかしたらあなたは世界最高のダンジョンマスターになれるかもしれない!」


「お姉様、それは褒めすぎですよぉ……!」


 エリンは両手を頬に当てて、なんだかクネクネと恥ずかしそうにしている。エリンはお姉様が大好きなんだなー。


「大丈夫ですよ、普通に水をかければ消火できますから。ちゃんと実験済みです」


「そうか、それなら話が早い」


 アナスタシアさんはそう言うと、何やら魔法を唱えた。すると巨大な氷の塊が現れて、それを宝箱に勢いよくぶつける。

 それを何度か繰り返した頃には宝箱を包んでいた炎が完全に消えていた。まあ剣聖様にとってはこんなの朝飯前か。


「まったく! よくもまあ意地の悪いことばかり思い付くものだな!」


 その後もアナスタシアさんはボス部屋へと突き進む。


「大事なエリンが貴様の毒牙にかからないかと毎日が心配でしょうがない!」


 毒牙て。俺は別にエリンに変なことする気は無いんだけどな。


「この世界に帰る方法さえ分かれば、即刻エリンを呼び戻すのにっ……!」


 アナスタシアさん、喋りすぎじゃないですかね? 仮にもここはダンジョンなんだから、騒がしくするとモンスターが寄って来たりするんじゃないか?


(ああっ!? やっぱり!)


 案の定、少しひらけた場所でアナスタシアさんは、火属性モンスターにぐるりと囲まれてしまった。ほらー、うるさくするから。


「邪魔だっ!」


 アナスタシアさんは剣を横に構えて、その場でぐるりと一回転した。スカートがふわっと舞ったかと思うと、次の瞬間にはモンスター達が次々と順番に苦しみだし、バタバタと倒れる。


 あまりにも見事で美しい光景に、俺は思わずみとれてしまった。こういうところを見ると、素直にカッコいいと思う。


 その後も壁から炎が吹き出す罠なんかをいとも簡単にかわしながら、アナスタシアさんはボス部屋へとたどり着いた。


 やっぱりボスとの戦いが一番の見どころだよな。さて、フラグ回収となるか?

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