第30話 俺の勘
チョロい剣聖様がやる気になったところで、俺達が作った炎のダンジョンの探索日を決めることになった。
「俺の休日でいいですか? ダンジョンって小一時間で攻略できるものじゃないですよね。なので俺の仕事が終わってからだと徹夜になってしまいますので」
「ああ分かった。どちらにしても私は全てのルートを確認するつもりだから、いつもよりは時間がかかるだろう。エリンはどうしたい? それが一番大切だ」
「私もできればマスターのお休みの日がいいですっ!」
「うんうん、本当にエリンは優しいね! そうやって他者を気遣うことができる妹をもって私は幸せだよ」
相変わらずだな、この剣聖お姉様は。
そして休日。やっぱり楽しみがあるとモチベーションが上がるようで、ここ最近の俺はさぞかし楽しそうに見えていたことだろう。
いかん、これでは俺が仕事大好きだと思われてしまう。覇気を消せ、覇気を。あ、元から覇気なんて無いか。
もっとも、俺が体調悪そうにしていても、心配して声をかけてくれるのは同期だけだろうな。
「すまない、待たせてしまったようだ」
炎のダンジョンを入ってすぐの所で、アナスタシアさんが画面越しに俺とエリンを見ている。
遅刻を謝るアナスタシアさん。俺はそういうことがきちんとできる人は好きだ。
そうだ、俺は別にアナスタシアさんを嫌いなわけじゃない。ただほんのちょっと困らせたくなることがあるだけだ。
「いえいえ、まだ約束の時間になってませんから遅刻じゃないですよ」
「お姉様、お忙しい中ありがとうございますっ!」
「エリンのためならこのくらい平気だからね! 抱きしめたいから早くこっちに帰っておいで!」
よし、剣聖姉さんは今日も絶好調みたいだ。それにしても今日のアナスタシアさんの装備、いつもと違うな。
腰あたりまである金髪ロングに純白の鎧に純白のマント。鎧というよりは胸当てと表現するべきで、そこにヘソ出しのチェック柄スカートといういつもの格好。
それが今日は一貫して青色の防具を身につけている。見た目はまるで氷のよう。
おそらくだけど炎ダメージ軽減の付与効果がある装備なんだろうな。その中でも剣は分かりやすく、刃が氷に包まれており一目でアイスソード的なものだと分かる。
あとこれはどうでもいいことだけど、属性ダメージ軽減の防具ってちょっと分かりにくいかも。炎ダメージ軽減なら炎の鎧というふうにしたほうが分かりやすいと思うんだけどな。
氷みたいな防具ってなんだか逆に炎に弱くなりそう。
「アナスタシアさん、完全装備ですね」
「それはそうだろう。ここは炎のダンジョンなんだから、それに適した装備にするのは冒険者の基本だ」
誇らしげにそう言うアナスタシアさんは汗ひとつかいてない。ここは炎のダンジョンなんだから、きっと中の気温は猛暑日以上になってるはず。属性装備って地味にそういったことからも身を守ってくれてるんだな。
「その剣も氷属性のようですね。他に武器は持って来てますか?」
「いや、今日はこれ一本だ。二刀流という手もあるんだが、どうも私には合ってないようでな」
「そうなんですね。それ一本だけですか」
「どうした? 何か問題でも?」
「いえ、さすが剣聖様は熟知してるなと思っただけですよ」
「なんだ? 気持ち悪い奴だな。貴様の褒め言葉は全く信用できんからな。エリン、私はエリンのために頑張るからね。私の勇姿、見ててね」
「はいっ、お姉様! いつも私のために本当にありがとうございますっ!」
「ああっ、本当にエリンは素直でいい子だね! もうホントに好き!」
アナスタシアさん、なんだかキャラ崩壊してないか? こっちが素なのかも? 確かにいつもあんな堅苦しい話し方だとめちゃくちゃ疲れそう。
そしてアナスタシアさんの探索が始まった。さっき自らフラグを立てたことには気がついてないようだな。俺の勘が正しければ、お姉様はエリンに勇姿を見せられません。
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