第29話 剣聖姉さん、分かってるくせに
アナスタシアさんの話によると、どうやらダンジョンマスター同士で行う交流戦というものがあるらしい。で、テーマというものがあるようで、次回のテーマは属性ダンジョンということだ。
「ところで、その新しくできたダンジョンとはどんなものなんだ?」
「こんな偶然あるんですね。俺達が作ったのは『炎のダンジョン』ですよ」
「ほう、それはまたずいぶんとタイミングがいいな」
「何かに特化したダンジョンはそれだけで価値があるって、アナスタシアさんが言ってたとエリンから聞きましたよ」
「ああそうだ。天然ダンジョンは時に思いもよらない種類のものが現れる。その種類は様々で、私でさえも予測不可能な事態に陥ることだってあるんだ」
「なるほど、分かりました。だからそれらを予測可能にするため、ダンジョンマスターが試行錯誤していろんな特化型ダンジョンを作るということですね」
「簡単に言うとそうなる。そして特化型ダンジョンの基本ともいえるのが属性ダンジョンなのだ」
確かに属性ダンジョンは基本であるといえるな。例えば炎のダンジョンなら火属性のモンスターばかり出てきて、宝箱には炎の剣みたいなものが入っていて、当然ボスも火属性の攻撃でHPが回復するけど氷属性が弱点だったりするのが待ち受けていることだろう。
「テーマが属性ダンジョンってことは、他の流派の人達も同じようなものを作ってるということですよね?」
「もちろんだ。だがどの属性にするのかまでは決められていないから、もしかすると相手も火属性ダンジョンを作ってきてるかもしれない」
「丸かぶりもありえるってことですか。なんか比較されてしまいそうですね」
「そうなったらそうなったで仕方ない」
「それなら他の参加者がどの属性ダンジョンを作ってるのか、当日まで分からないってことですね。だとすると事前準備ができませんね、困ったな」
そうなんだよな、RPGとかだと次に行くダンジョンの情報が分かってることが多いから、万全の準備をしてから行くことができる。
それが属性ダンジョンなら尚更のこと。火属性なら火属性ダメージ軽減の装備にすればいいし、武器も氷属性のものを用意すれば戦闘がグッと楽になる。氷属性の攻撃アイテムを大量に持って行くのもいいかもしれない。
でもそんな大事な情報が無いとなると、準備のしようがないというか何というか。
兜が火属性で、鎧は氷属性で、武器は雷属性で……なんて、どっちつかずな装備になってしまいそう。それなら無属性のほうがマシな気がするな。
「大丈夫だ、その点については問題ない。事前に属性の申告をすることになっているからな。しっかりと準備することができるぞ」
「よかった、さすがにそうですよね。それじゃアナスタシアさんも準備して来て下さい」
「準備? それはエリンがすることであって私は剣聖という立場上、ダンジョン作りに手を貸すことはできないぞ?」
「やだなぁー、アナスタシアさん、分かっててとぼけてますね? ダンジョン作りならもう大丈夫ですよ、完成してますから」
俺はワザとらしくアナスタシアさんに聞いてみた。らしくというか、完全にワザとなんですけどね!
「だったら私の出る幕は無いじゃないか。あとは当日を待つのみだな」
「何言ってんですか、アナスタシアさん専用の出る幕があるじゃないですか」
俺がそう言うとアナスタシアさんの顔が赤くなったように見えた。それは怒りなのか、それとも恥ずかしさからくるものなのか。
「要するに貴様はまた私に探索しろと言いたいのだな?」
「正解! ほら、こういうのって作った側はそれがいいものなのかどうか分からないじゃないですか。作ってる時はめちゃくちゃ良く思えても後から冷静に見てみると、なんだコレ? ってこと、ありますよね? だから第三者の目で一回見てほしいんですよ」
「くっ……! 確かに貴様の言う通りだ……。だがエリンの考えも聞いてみないとな。貴様の言う通りにするのは
「だってさ。エリンはどう思う?」
「お姉様ならきっと大丈夫ですっ!」
なかなかの早さで返事が来たな。エリンのことだ、きっと本心からの言葉なんだろう。
「エリンっ……! テストなら私に任せておけばいいからね!」
アナスタシアさんも即答だ。剣聖様、チョロいっスね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます