第28話 剣聖様が話を持ってきた

「エリン、見えてるか? 私だ」


「お姉様っ!」


 俺とエリンが見ているダンジョンのエディット画面からアナスタシアさんの声が聞こえてきたので、エリンが映像を初心者ダンジョンへと切り替えた。


 日本と異世界で連絡を取れるなんてとんでもないことだけど、これはダンジョンマスターのスキルなのでダンジョン内でしか使えない。


 俺達が画面越しにアナスタシアさんを見つけるか、アナスタシアさんがダンジョンに入ってエリンに話しかけるかのどちらか。なのである意味一方通行の連絡手段だ。


 だが圧倒的にアナスタシアさんがわざわざ初心者ダンジョンに来ることのほうが多い。剣聖姉さん、いつもお疲れ様っス!


「俺もいますよ!」


「チッ!」


 舌打ち。剣聖様が舌打ちですよ。俺の家なんだからそりゃいますって。


「お姉様、今日はどのようなご用ですか?」


「大したことはないんだけどね、ダンジョン作りの進捗はどうなってるのかなと思ってね」


 アナスタシアさんってエリンと話す時は口調まで優しくなるんだよな。俺と話す時みたいな口調と、一体どっちが素なんだろう?


「順調ですよ。やっぱりエリンは凄いですね。俺が頼んだことをもれなくやってくれます」


「貴様には聞いておらん!」


 この人めんどくさいよぉ……。そりゃ確かに俺に聞かれたわけじゃないけど、俺とエリンが一緒にダンジョン作ってるの知ってんだから、俺の言うことも信じてくれていいと思うんだ、俺は。


「順調ですよ。やっぱりマスターは凄いですね。私では思いつかないことをたくさん指示してくれます」


「そうか、さすがエリン! 私、妹がエリンでよかった!」


「私もお姉様がお姉様でよかったですっ!」


 さっき俺、同じようなこと言ったよ? いつもながらヒビひとつすらない姉妹愛。それを俺はどんな顔で見ていればいいんだろう。


「アナスタシアさん、そちらは何か進展がありましたか?」


「エリンがこちらの世界に帰る方法については今も模索中だ。その代わりと言ってはなんだが、エリンが優れたダンジョンマスターとして世間から認識される近道を持って来た」


「世間から認識される近道、ですか? 確かにそちらの世界に帰れたとしても、エリンがお父さんに認められない限りは手放しでは喜べませんね」


 帰ったけど帰る場所が無い、みたいな。エリンは由緒正しい家系だし、俺なんかでは想像できない何かがあるのだろう。


「そうだ。だからこちらの世界に帰る方法を見つけることと並行して、エリンの知名度を上げることも進める必要がある」


「ですね。それでその近道とは何ですか?」


「交流戦だ」


「交流戦? 戦ってことは誰かと戦うのでしょうか?」


「そうだ。といってもそんな殺伐とした戦いではなく、あくまで交流が目的。それぞれ別の流派のダンジョンマスターが作った新作のダンジョンを攻略し合い感想を言ったり聞いたりして、よりよいダンジョン作りを目指すことを目的としている」


「ダンジョン作りに流派なんてあるんですね」


「そうだな。例えばリーンベル家はダンジョン作りにおいてバランスを重視している。ここでいうバランスとはモンスターの強さや数、宝箱の中身や数、罠などのギミックの種類や数、ボスの強さなどを総合的に考えて、冒険者があらゆる経験を積めるようにしている」


「まさに人工ダンジョンの存在意義って感じがしますね。他にはどんな流派があるんですか?」


「簡単に説明すると、ボスまでの道のりは簡単だがボスが強かったり、それとは逆に罠などのギミックが凝っていたり、まあいろいろだ」


「どれも冒険者さんにとって大事なことばかりですからね!」


「なるほど、よく分かりました。その交流戦がもうすぐあるというわけですね」


「その通りだ。だから初心者ダンジョン以外のダンジョンが必要なのだ」


「それはちょうどよかった、初心者ダンジョン以外に一つできたばかりですよ」


「ほう、それは面白い。だが交流戦にはテーマがある。テーマに沿ったものじゃないといけない」


「そのテーマとは何ですか?」


「次回のテーマは『属性ダンジョン』だ!」


 その言葉を聞いた俺とエリンは顔を見合わせ、お互いに微笑む。


「ところで、その新しくできたダンジョンとはどんなものなんだ?」


「こんな偶然あるんですね。俺達が作ったのは『炎のダンジョン』ですよ」

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