第24話 剣聖姉さん、喜ぶ
「やっと起きたか、これはどういうことか説明しろ!」
アナスタシアさんの声で叩き起こされた。寝起きでそんなこと言われても、頭回らんし。
「エリンから何も聞いてないんですか? 一晩中見張ってくれていたはずですよ」
「私は忙しいんだ、せっかくのエリンとの時間をこんなワケの分からんことの説明で浪費したくはない。エリンと話したいことは山ほどあるんだ」
「ワケ分からんことはないでしょ」
どうやら剣聖様は私情をはさむお方らしい。いいのかそれで? エリンはエリンで嬉しそうにしてるし。
そもそも俺に初心者狩りの排除を命じたのはあなたなんですよね。これも言ってしまおうか?
「いや十分にワケが分からんぞ。こいつはメタルサーペントだろう? なぜAランクモンスターがここにいる?」
「ロープが無かったからです」
俺は堂々と答えた。だって本当のことなんだから。
「答えになってないじゃないか! ロープが無かったらAランクモンスターがやってくるのか? やって来ないよな? どう考えても貴様が何かしてるよな? 常識というものを知らんのか? ヘビは生き物だぞ? そんなことも分からんのか?」
質問のコマ切れはやめろっ! なんで家にいる時までネチネチ上司のことを思い出さないといかんのだ!
「そこにグルグル巻きにされてる男がいるでしょ? そいつが初心者狩りですよ。自供しましたからね。どうやら一人でやったことのようです」
「気絶してるようだが?」
「あー、それはおそらくメタルサーペントの恐怖からかなと。毒もあるようなので」
「しかし驚いたな、メタルサーペントに巻き付かれたら最後、まさに最期まで締め上げられるはずなんだが、こいつは手加減してるように見える。そんなことができる知恵があるとは思えないのだが。それこそ噛み付かれることもあるわけで」
「それはエリンの力ですよ。俺がエリンに頼んでメタルサーペントの習性を改変してもらったんです」
「モンスターの改変だと!? そんなことできるわけがなかろう!」
「それができるんですよねー。そのメタルサーペントは人が動けなくなるくらいの力で締め上げて、絶対に噛み付かないように習性を書き換えてあります」
その言葉の後に、あくまで考えたのは俺だということを強めに付け加えた。エリンは俺のオーダーを忠実に実現してくれているだけだということも忘れずに。
万が一にもエリンが考えたことだと誤解されるわけにいかんのだ。
「それにアナスタシアさんだって、実際に体験してるじゃないですか」
それはもちろん言うまでもなく、腹から触手が生えるゴブリンファイターのことだ。
「ええぃ、思い出させるなぁーっ! それよりもエリン、こいつが言ってることは本当なのか!?」
『こいつ』呼び、いただきました。呼び捨て・貴様・こいつ。呼ばれ方が酷すぎて逆に楽しくなってきた。
「はい、本当ですお姉様! 私自身もなぜかは分からないんですけど、なんというか空から降ってきたと言いますか、マスターのお役に立ちたいと思ったら、パッと頭の中に方法が思い浮かんだのです」
「モンスターの改変なんて聞いたことが無い。もしかしてそれはマスタースキルなのではないか? もしそうだとすると、エリンが家を出なければいけない理由が無くなる! そうすればお父様もきっとエリンを認めてくれるはずだ!」
そうだった、そもそもエリンがリーンベル家を出なければならなかった理由は、18歳になってもマスタースキルが使えるようにならなかったからだ。
ということはマスタースキルが使えるようになれば、理屈としてはリーンベル家のダンジョンマスターとして認めてもらえることに。
「よし! そういうことなら私からお父様に話してみよう。エリンは
「やっぱりモンスターの改変ってマスタースキルなんですか?」
「正確には鑑定スキルで確認する必要があるが、まず間違いないだろう。モンスターの改変だなんて、とんでもない技術だぞ。他にできる人なんていないんじゃないだろうか」
エリン、チートスキルに目覚める。俺的にはそんなにも凄いことなのかと思わなくもないけど、アナスタシアさんが言うのなら、きっとそうなんだろうな。
「えーっと、話がまとまったところで質問なんですけど、その男どうします? やっぱり警察に連行ですよね」
「けいさつ? が何かは分からんが、身柄は国家騎士団に引き渡されることになる。そして裁判になるだろうな。冒険者が起こした傷害事件は、より重罪になる。少なくとも二度と冒険者にはなれない。さらに被害者への賠償、そして懲役だな」
初心者狩りの件は一件落着といったところか。
「この男のことは私に任せておくといい。然るべき手順で罪を償わせよう。それはそうとして、こうなるとより一層、急ぐ必要が出てきたな」
「急ぐって、何をですか?」
「決まっているだろう? エリンが元の世界に帰る方法を探すことだ」
アナスタシアさんの言葉で俺は改めて自覚する。エリンはいつか帰るということを。
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