第25話 転移魔法
「急ぐって、何をですか?」
「決まっているだろう? エリンが元の世界に帰る方法を探すことだ」
アナスタシアさんの言葉で、俺はそもそもの目的を思い出した。エリンは異世界からやって来たのだから、いずれは帰ることになる。
俺はその手伝いができればという思いで、今まで協力をしてきたんだ。
「急ぐってことはすでに動き出してるってことですか?」
「もちろんだ。エリンは気が付けばそこにいたと言っていた。エリン、それで間違いないよね?」
「はい。私が荷造りをしていたら、いきなり目の前が真っ白になりました。そのまま意識を失ったみたいで、目を覚ました時にはこの部屋にいたんです」
「確かこの部屋にあるクローゼットの中にいたんだっけ。俺はてっきり泥棒かと思ってめちゃくちゃ警戒した」
「エリンからその話を聞いた時、私はある可能性を思い浮かべた。それは『転移魔法』の可能性だ」
「えっ!? 転移魔法ってダンジョン内での使用限定で、入り口に戻ることしかできないんじゃないんですか?」
確かエリンのお父さんのマスタースキルが『ダンジョン間を瞬間移動できる』って話になった時に、エリンがそんなことを言ってたっけ。
「確かに現状はそうだな。だが場所そのものを瞬間移動できる魔法も、昔からいろんな機関で研究開発されていてな。リーンベル家もその例に漏れないのだ」
「それってリーンベル家が運営する研究機関があるってことじゃないですか」
俺が思ってた以上に、リーンベル家ってとんでもない家系なんじゃないか? 男の一人暮らし部屋に住まわせているのが、なんだか申し訳なくなってきたぞ。
「まあリーンベル家は国とも繋がりがあるからな。ダンジョン作りの他にもいろんなことを仰せつかっている。魔法の研究もその一つだな」
「本当に凄いですね。でもそれとエリンが日本に来たことと、何か関係があるんですか?」
「ここまで言ってまだ分からんのか? 本当に貴様はどうしようもない男だな」
この話の流れで俺をディスる必要がどこにあるんだよ……。またくっころしてやろうかな?
「もしかしたらエリンは事故に巻き込まれた可能性がある」
「事故って、まさか転移魔法の研究の?」
「あくまでエリンの話から考えた仮説だ。私は実際に転移魔法でダンジョンの入り口まで戻ったことがあるんだが、目の前が真っ白になって気が付けば入り口にいたことをよく覚えている。まさにエリンが言った通りの感覚だ」
おいおいマジか。もし本当にそうなら
(ん? 待てよ?)
「なあエリン。荷造りをしてたらここに転移したって言ったよな?」
「はい、間違いないです。カバンにいろいろな物を詰め込んでいる途中でした」
なるほど、だから何も持っていなかったのか。何も持たず異世界にって、ヤバすぎだろ。本当にラノベみたいな展開だ。
「つまり家に居たってことになるよな。アナスタシアさん、もしかして魔法の研究って家でやってます?」
「正確には同じ敷地内にある研究所だな。さすがに住居とは別にしたほうがいいだろうということでそうなった」
そうかぁ。だったらアナスタシアさんが言う通り、事故というのはあながち間違ってないのかもしれないな。
「エリンの転移がもしも本当に魔法によるものであれば、帰るための魔法もきっとあるはず。だから私は研究所にも顔を出しているんだ」
「成果は出ているんですか?」
「今のところは進展無しだ。だが私は絶対に諦めないからな。必ずまたエリンをこの腕で抱きしめてみせる!」
「お姉様っ……!」
「エリンっ……!」
見つめ合う二人。相変わらず美しき姉妹愛。エリンもウットリしてるし。まあお互い画面越しでしか会えないんだから、ツラいだろうなということは分かる。
「だからエリンは引き続きダンジョン作りを進めて、ダンジョンマスターとしての役目を果たしてくれ」
「分かりました!」
こうして俺はアナスタシアさんとの話を終えたわけだが、その頃には遅刻ギリギリの時間になっていた。
(出勤前にする話じゃなかったな!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます