第17話 コレじゃない感
作り直した初心者ダンジョンの公開初日に、50人の冒険者が訪れたらしい。
それが多いのか少ないのかは分からないけど、エリンが「50人も来てくれたんですよ!」と言うのだから、きっと多いんだろうな。まあこの子の場合は1人だけでも大喜びしそうだけど。
「その時のダンジョンの様子、見ますか?」
「その時のって、過去ってことだよな。そんなことできるの?」
「バッチリ録画してありますっ!」
エリンはそう言って、いつもの見慣れた画面を出した。目の前のテレビを隣同士二人で仲良く観ているような感覚。
そしてその隣の画面には、ダンジョン内部がリアルタイムで映し出されている。録画を見ながらにして、現在の様子も把握できるというわけだ。なんか管理者っぽくていいな。
「公開直後から見てみましょう。実は私も見るの初めてなんです」
「そうなんだ? 朝からずっと一人で家にいても退屈だろうし、てっきりリアルタイムで中の様子を見て過ごしてたのかと思ってた」
「それはその、マスターと一緒に見たくって……」
銀髪ロング美少女の破壊力よ……。あまりにも真っ直ぐな言葉に俺は、「そっ、そうか。ありがとな」と返すのが精一杯だった。もっと頑張れよ俺!
(さて、最初に来たのは誰だ?)
記念すべき初来訪者は4人。若い男女二人ずつで男は剣と斧をそれぞれ片手に持ち、女の子は二人とも杖を持っている。おそらく男二人は前衛、女の子二人は魔法担当みたいな感じだろう。バランスのよさそうなパーティーだ。
『ここがあの有名なリーンベル家が作ったダンジョンかー』
『ねぇー、わざわざ入場料を払ってまで入るようなとこなのー?』
『ギルドの受付のお姉さんにも言われたじゃないか。俺達のような冒険者になりたての者は、まず人工ダンジョンで経験を積んだほうがいいって』
『そうだよ。私達はギルドで冒険者登録したばかりなんだから、アドバイスは素直に受け入れたほうがいいと思うわよ』
入り口でそんな会話をしている四人だけど、気になる発言をしてたな。
「なあエリン、あの女の子が入場料を払ったとか言ってたけど、人工ダンジョンに入るのに金がいるってこと?」
「そうですね、入場するためにはお金を支払う必要があります。そうしないと、気楽にみんな一斉に来ちゃいますからね。それとあまり言いたくはないですけど、やっぱりダンジョンを作るのにもお金がかかりますから、皆さんからいただく必要があるのは事実です」
そりゃそうか。例えば宝箱に入れるアイテムだってタダじゃない。何をするにしても金はかかる。それなら利用者から回収するのは道理ってもんだ。
「でもでもっ! いただくのは少額で、人工ダンジョンを作る一番の理由は、冒険者の皆さんに生きていてほしいからなんですっ」
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」
きっとエリンは、俺がエリンのことを守銭奴だと誤解するのを心配したんだろうな。そんなこと思うわけないのに。
その後このパーティーの動向を見てみたけど、ごく普通のチュートリアルダンジョンって感じで、冒険者としての心得を学びながらサクサクとボス部屋まで進み、四人で協力してゴブリンファイターを倒した。
見えてるけど絶対に取れない宝箱なんて無いし、ボス部屋へのルートを記した看板は全撤去。ゴブリンファイターに触手なんて無く、ボス撃破報酬はワンランク上の武器で、泥なんて飛び出すわけがない。
『ふぅー、なんとか倒せたな』
『俺とお前のコンビ攻撃は最強だぜ!』
『うん、二人ともカッコよかったよ!』
『二人とも、なかなかやるじゃん。ちょっと見直した』
『なんだよ、今まではよく思ってなかったのかよー。ま、それはそれとして二人とも、魔法での支援サンキューな』
『えへへっ、褒められちゃった』
『べっ、別にあのくらい普通よっ!』
ボスを倒した達成感からか、四人の雰囲気がさらに良くなったように見える。これはこれで実に微笑ましい光景。だがダンジョンマスターとしての感想はこうだ。
(物足りねー)
イチャイチャしおって。そこはダンジョンだっての。いや、いいんだよ? これこそがダンジョンマスターの役目なんだから。
でも刺激というか、もう少し見応えがほしいと思うんだ、俺は。ああ、でも人が傷付くところは見たくないかな。
そんなことを考えてみると、アナスタシアさんはなんていい客だったのだろうか。
「クリアおめでとうございますっ!」
俺の真っ黒な腹とは裏腹に、エリンは録画の映像に向かってそんな言葉をかけた。もしかして俺って性格悪いのか? いやいや、そんなことはないぞ。くっころ姉さんが面白かっただけだ。
そんな俺の想いが通じたわけはないだろうけど、リアルタイムでダンジョン内部を映すもう一つの画面から、エリンを呼ぶ凛とした声が聞こえてくる。
「エリン! 聞こえるか?」
声の主はもちろんアナスタシアさんだ。
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