第15話 なんだかんだで協力してくれる剣聖姉さん
俺考案の初心者ダンジョンをアナスタシアさんが攻略した翌日、俺は見事アナスタシアさんの公認を得た。これで堂々とエリンに協力できる。
俺とエリンは俺の家に、アナスタシアさんは昨日のダンジョンにいる。今こうして画面越しに話せているのは、ダンジョンマスターのスキルのおかげ。
このスキルはダンジョン内にしか効果が及ばない。だからアナスタシアさんにわざわざダンジョンまで来てもらう必要がある。
「いいか! あくまで一時的にだからな! エリンがなぜ
「はい、お姉様!」
今日も美しきかな姉妹愛。画面越しでもこうなんだから、実際に会うとどうなるのか見てみたい。
「あの、アナスタシアさん、一つ質問があるんですけど」
「なんだ? エリンのスリーサイズなら教えんぞ」
「そんなことは微塵も考えてませんよ。俺が聞きたいのは、ゴブリンファイターの触手に両手足を拘束された時『くっころ』がでましたよね。でその後、アナスタシアさんの体が炎に包まれて触手が燃えたわけですけど、あれは何かの魔法なんですか? その前に何か言ってましたよね」
「あー、あれか。あれはな、私にも分からん。全身を炎に包む魔法なんて聞いたことがない。私はただ、呪文のようにエリン可愛いエリン最高と口に出していただけだ」
怖えよ。エリンへの燃えるような想いがそうさせたとでもいうのか?
「私も一つ気になったんだが、『くっころ』とはなんだ? そんなもの出した覚えは無いんだが」
「気にしないでください、こっちの話です」
俺がそう言うとアナスタシアさんは、「そうか。まあ貴様の言うことだからどうせロクなことじゃないのだろう」と、半ば呆れながらため息を漏らした。
「それと大事なことをもう一つ。このダンジョンは作り直せ」
「えぇ……我ながらよくできたと思うんですけど」
「これのどこが初心者ダンジョンだっ! 私だから良かったものの、もっと基礎的なことが学べるようでないと意味が無いだろ」
「初心者だからこそ苦労を知ることが大事なんですよ。そしてそれを突破する思考と能力を身につける。それが結果的に冒険者の命を守ることにも繋がるんです」
「やっぱり貴様とは価値観が合わんようだな」
「せっかくエリンが頑張ってくれたのに……」
「くっ……! そこでエリンの名前を出すのはズルいぞ。いいか、とにかく作り直せ!」
俺は仕方なく普通のチュートリアルダンジョンに作り直した。
さらに翌日。デスクワークによって疲れた体を待っていてくれたのは、エプロン姿のエリンだった。ピンク色のギンガムチェックのエプロン。一緒に買い物に行った時に、エリンが「これ可愛いです!」と選んだものだ。
そしてローテーブルにはエリンが作った料理が並べられている。白ご飯にサラダ、メインは唐揚げだ。俺は揚げ物を作ったりはしないので、料理スキルはエリンが圧倒的に上だろう。
残念ながら俺には、異世界で料理無双できるほどの実力は無い。
「んー! 美味しーい! やっぱりこのお米という食べ物、私好きですっ!」
目の前にはとても無邪気な笑顔の女の子。なんだろう、今までただ食事して風呂入って寝るだけだった空間が、エリンが来ただけでこんなにも帰りたくなる場所に変わるだなんて。
「そういえば次は何をすればいいんだ?」
俺がそう聞くと、エリンは口に入れたばかりの唐揚げを急いで飲み込んだ。そんな慌てなくていいのに。
「このお肉も美味しいっ! ……あ、えっと、昨日作り直した初心者ダンジョンを昼間のうちにお姉様が攻略して、お姉様の合格をもらいました。なのでリーンベル家の正式な人工ダンジョンとして、国に申請してもらえることになりました」
「おお、よかったじゃないか。それで国から許可がでれば、実際に冒険者が探索できるようになるんだな?」
「そうですね。それが正式な手順になってます」
「ならこの調子でどんどんダンジョンを作っていけば、お父様にも認めてもらえるな」
「はいっ、マスター!」
「俺はただのアドバイザーで、マスターはエリンだからね。だからマスターって呼ばなくても大丈夫だから」
「分かりましたっ、マスター!」
「言ってるそばから!」
二人で顔を見合わせ笑い合う。言葉のやり取りもそうだけど、この温かな雰囲気に何よりも癒される。だから俺にできることなら何でもしようと思えるんだ。
次の日、俺は今日も社用パソコンとにらめっこ状態だ。俺もタイピングには自信があるが、エリンには負けてると思う。
目を散々酷使した後の昼休み。俺が同期達と食事を終えて一人ゆっくりしていると、スマホに着信があった。それはエリンから。俺がエリンのために買ったものだ。
「マスター! 私達が作った初心者ダンジョンが国から正式に認可されましたっ!」
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