第9話 着手

 アナスタシアさんから認めてもらう条件、それは高難易度ダンジョンを作ること。

 さあ今からやるぞと言いたいところだが、もう深夜1時だ。今日も仕事があるから徹夜はできないけど、少しだけやってみるか。


 俺とエリンは横並びで座り、それぞれ目の前のモニターを見ている。俺の方にはダンジョン内の画像が、エリンの方にはプログラムのようなものが映し出されている。


 初心者向けということは、チュートリアルのようにすればいい。ダンジョンには危険がいっぱいだということを身をもって知ってもらう。

 人工ダンジョンが存在するそもそもの理由がそれなんだから。


 エリン作のダンジョンを作り替えることにしよう。まずは足元。転んだらいけないからという理由で、綺麗な石畳にしたということだ。エリンなりに考えてのことなんだろう。


「エリン、足元を壁や天井みたいにゴツゴツした岩肌にできるか?」


「はい、マスター」


 エリンが細くてしなやかな指をキーボードの上で滑るように動かすと、画面に内装の一覧が表示された。実に多彩な種類があり、一覧だけでもかなりのページ数があることが分かる。


 これぞダンジョンというようなオーソドックスな洞窟、かつては賑わっていたであろう城らしき廃墟、どこか神秘的な神殿など、状況に応じて使い分けができそうだ。


 内装を全て岩肌に設定し終えると、今度は分岐ルートを作る。エリンは冒険者が迷ったらいけないからという理由で一本道にしたらしい。本当に細やかな気遣いのできる子だ。ダンジョンマスターよりも聖女とかが向いてると思うんだけどな。

 

 入り口から真っ直ぐ数十メートル進んだ地点を最初の分岐点にすることにした。最初なので左右に分かれるシンプルな作りに。


 ボスへと続く道、つまり正解のルートは右にした。左は行き止まりだが、宝箱を置こうと思う。俺はゲームだと宝箱を全部回収しないとスッキリしないタイプなので、正解っぽい道を進んでそうなら、わざわざ引き返すほどだ。


「ここに宝箱を置きたいんだけど」


「はい、マスター。宝箱の一覧を出しますね」


 安っぽい木製のものから豪華な装飾が施されたものまで、様々なデザインがある。さらに色違いもあったりして、なんだかカタログを見てるみたいだ。


「マスター、鍵と罠はどうしましょうか?」


「最初だからさすがに両方とも無しで」


「中身はどうしましょう?」


「どんなのがあるんだ?」


「私のアイテムボックスの中を表示しますね」


 今度はアイテムの一覧が表示された。相変わらず文字は分からないが、数字は似たような形なので判別できる。


「えっと、私が自由に使える残りは低級ポーション188個、解毒薬169個、万能薬71個、あとは——」


 しっかりした在庫管理。そんなに数が多ければ、棚卸しで数が合わないとか問題が起こりそうなものなんだが。アイテムボックスと言ってたから、きっとエリン専用なんだろう。


 薬の他に戦闘用アイテム・装備品など、種類は豊富だ。エリンは全部を読み上げようとしたが、朝までかかりそうなので途中で止めた。一睡もせずに仕事は無理ゲーすぎる。


 ああそうか、それもあるだろうけどおそらくゲームみたいに入出庫を自動でカウントしてくれるっぽいな。早く地球もそうなれ。そして労働時間短縮してサービス残業を無くそうぜ。


「これって在庫が無くなったらどうなる?」


「リーンベル家に申請をして、認可されればリーンベル家のアイテムボックスから補充されます。ただ今の私は家を出た身ですから、リーンベル家には頼れません……」


「つまり有限ってことか」


 無闇やたらに宝箱を置くことはできなさそうだ。まあ別に宝箱なんて置かなくてもいいものではあるけどな。とりあえず最初の宝箱には低級ポーションを一個入れておいた。


 その後も通路を拡張して、あとはボス部屋を残すのみだ。エリンにFランクボスモンスター一覧を表示してもらい、とりあえず名前だけ教えてもらった。


「ホブゴブリン、メイジゴブリン、ゴブリンファイター、ゴブリンアーチャー、ゴブリンランサー、あとはオークに——」


 ゴブリン多いな。ゴブリンと女性冒険者の組み合わせというだけで、イケナイ想像が頭をよぎるのは何故だろう?


 まあアナスタシアさんは剣聖だから、ゴブリンが束になったところで範囲技で一掃されて終わりだろうけど。


「うーん、どれも普通だな。もう少し特徴的なのはいないのか?」


「ごめんなさいマスター……。私にもっと力があれば……」


 力なくうつむき、目に見えて元気が無くなっていくエリン。


 しまった! エリンは何も悪くないのに。何かいい方法はないものか。……そうか、いないなら作ればいいじゃないか。

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