第8話 イケナイことを教えようと決意する話
突如として訪れた姉妹の再会。しかしそれは画面越しだった。しかも日本と異世界というどうにもできないような状況。
さらに俺がエリンを日本に連れて来たんじゃないかという疑いをかけられている。
「貴様は何者だ! なぜエリンと一緒にいる!」
画面越しでも鬼気迫るものを感じ、思わず画面から離れてしまいそうになる。剣聖というのも頷ける話だ。もしかしたら『威圧』なんてスキルを持っているのかもしれない。
「初めてまして。俺は
「そうなんですお姉様! マスターは行く宛ての無い私を一緒に住まわせてくれているんです!」
「い、一緒に……だと!? 貴様ぁーっ! エリンに変なことしたんじゃないだろうな! それにマスターってどういうことだ! いやその前にそこはどこなんだ! そもそも何故そんなところにいるんだっ!」
気持ちは分かるが質問が多い! これはエリンに任せるしかなさそうだ。
興奮している剣聖お姉様が落ち着くのを待つ間、俺はエリンにお姉様のことを聞いた。
お姉様の名前はアナスタシア・リーンベル。リーンベル家の長女で25歳。彼女もダンジョンマスターなのだが、18歳になりマスタースキル『剣聖』が覚醒した。各能力が大幅に上がり、数えるほどしかいないとされるSランク冒険者にも引けを取らないほどに急成長を遂げる。
ダンジョンマスターとして『剣聖』が覚醒したことの意味。それは家族が作ったダンジョンの探索をすること。いわばゲームテスターのような役割を果たすためなのだろう。バランス調整前の思わぬ高難易度でも、剣聖なら耐えられる。
でもそれだけではない。天然ダンジョンの調査という大役も担っている。人工とは違い天然ダンジョンの中では復活なんてできない。だから剣聖という能力を活かすべく、普段は冒険者として活動しているらしい。
「——というわけで、マスターは私を住まわせてくれたうえに、ダンジョン作りのお手伝いまでしてくれると言ってくれました」
「そうか、その男が一緒にいる事情は分かった。エリンがお父様から家を出るように命じられた日に突然いなくなって、みんな本当に心配しているんだ。それに……お父様だって本当はエリンに家を出てほしくなんてないんだよ? ただリーンベル家当主として、時には残酷な決断を下さないといけない時もあるのだ」
「それはもちろん分かっています。だから一刻も早く一人前になって、お父様に安心してほしいのです。もちろんお母様やお兄様、それにお姉様にも……っ!」
「エリン……。それにしてもこのダンジョンに道が増えてるからまさかと思って来てみれば、こんなことになってるとは……。
「お姉様、もしかしてずっと私を探してくれていたの?」
「当然じゃないの! 私の可愛い妹なんだから。他にもエリンが作ったダンジョンを見て回ったのよ」
「お姉様、ありがとう……!」
「エリン。ああ、早く抱きしめたい……」
美しき姉妹愛。きっとアナスタシアさんも人を思いやることのできる人なんだろう。姉妹愛……別の意味じゃないよな?
「ミカゲッ!」
(いきなり呼び捨てかよ!)
エリンとの扱いの差に若干戸惑いつつも、俺は冷静に返す。
「はい、なんでしょうか?」
「貴様、エリンのダンジョン作りを手伝うそうだな?」
「そのつもりです」
「だったら、私がテストしてやろう。貴様が考えたダンジョンを私が攻略する。それで合格なら、今後もエリンのそばにいることを認めようじゃないか。まずはこの初心者ダンジョンを作り替えてもらおうか」
上から目線だとは思うが実際、立場的にはアナスタシアさんのほうが上だから、文句を言うつもりは無い。
「エリンがなぜ家を出ることになったのか……、貴様にも分かるだろう? だからこれはエリンが立派なダンジョンマスターになって帰って来るための布石なのだ」
ああ分かるさ、エリンは人の嫌がりそうなことを考えられない。でもそれじゃダンジョンマスターとしては未熟だ。だったら俺が思いっきり性格が悪いダンジョンを作ってやる。エリンにイケナイことを教えるんだ。
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