第7話 誤解される話

 エリンのお姉様は剣聖らしい。もはや説明不要かとも思うが、一応聞いてみる。


「お姉様もダンジョンマスターなんだろう? それに剣聖って?」


「もちろんそうなんですけど、お姉様が18歳で使えるようになったマスタースキルが『剣聖』だったんです」


 そういえば今までスルーしていたけど、マスタースキルについて詳しく聞いてないな。

 本来なら得られるはずの力を主人公だけが得られないから家から追放される、という作品をいくつも見てるから、妙に慣れてしまっていた。


「マスタースキルというのは、リーンベル家の者が18歳になると使えるようになると言われている特殊な力のことです。例えばお父様のマスタースキルは、『天然・人工に関係なく全てのダンジョン間を一瞬で移動できる』という、夢のようなスキルなんですよ!」


(なんだか微妙な効果のような……)


「瞬間移動の魔法とか無いの?」


「ダンジョン内での使用限定で、ダンジョンの入り口に戻る帰還魔法ならありますけど、場所そのものを移動できる魔法はありませんね。帰還魔法ですら、使える人は少ないです。でも転移魔法の研究は昔から行われていますよ」


 ダンジョン間限定だとしてもそこにダンジョンさえあれば、例えば日本の裏側にあるブラジルにも一瞬で行けることになる。そう考えるとチートスキルと言えるかも。


「なるほど、それは確かに凄いな。でもダンジョンマスターと剣聖って関係ないように思えるけど?」


 冒険者としてならSランクになれるんじゃないだろうか。なんならラノベの主人公にもなれそうだ。『スキル覚醒せず追放された良家のお嬢様、実は剣聖だったので無双してざまぁします』みたいなタイトルで。


「えっとですね、ダンジョンを作ったらまずはさっきみたいに遠隔操作でシミュレーションをします。それで大丈夫そうなら今度は報酬を用意して冒険者さんに依頼して、実際に探索してもらいます。でも死なないとはいえ怪我はするかもしれないので、なるべく高ランクの冒険者さんにお願いするんです」


「そうか、分かったぞ。剣聖なら強さは申し分ないから、お姉様に頼めばいいわけだ」


「その通りですっ! さすがマスター」


 冒険者に依頼すれば報酬分のコストがかかる。でもその役目を家族が担えばコストカットになるというわけか。


「私たちダンジョンマスターにはモンスターと戦う力はあまりありません。冒険者ランクでいうとEランクくらいです」


 そうは言ってるけど、冒険者じゃない人達よりは強いってことにならないか? ダンジョンマスター自ら探索できるだけの能力も少しながらあるってことだ。


 その時だった、俺の目の前にある画面に何かが映り込んでいることに気が付いた。


 腰あたりまである金髪ロングで純白の鎧に純白のマント。鎧というよりは胸当てと表現するべきだろうか。腕やひざから下の部分も守られてはいるものの、ヘソ出しで制服のような黒っぽいチェック柄のスカート。機能性と共に美しさも兼ね備えている美女だ。


「エリン、いるの!? もしいたら返事をしてっ!」


「お姉様っ!?」


 エリンがグイッと俺にもたれかかり、目の前にいる美女に向けてそんな言葉をかけた。

 ところが美女には届いてないらしく、その様子を見たエリンはキーボードを高速で操作し始め、再び俺にもたれかかり「お姉様っ!?」と声を出して、画面を見つめている。


「ああっ、その声、やっぱりエリンなのねっ! どこにいるの? すっごく心配したんだから……!」


 辺りをキョロキョロ見回していた美女はやがてカメラ目線になり、こちらへ近付いて来た。


「ああっ……、エリンっ! よかった、もう二度と会えないんじゃないかと思った……」


 どうやらこの美女は剣聖お姉様で間違いないようだ。おそらくお姉様からもエリンが見えているのだろう。姉妹の再会だ。

 それと同時に俺の姿も見えているということに。


「そうか、その男がエリンを……っ! 貴様! エリンをどうするつもりだ!」


 しっかり誤解されていた。貴様だなんて初めて言われたよ。

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