第6話 どうやら本当にいるようです
冒険初心者向けのダンジョンを作り直してみることにした。
エリン作のダンジョンは冒険者が迷わないようひたすら一本道で、途中にはミミックじゃないことを証明するために、開いてるけど中身はちゃんとある宝箱が置かれ、冒険者が傷つかないようにモンスターは一体も出ないというものだった。
きっとエリンには意地悪な仕掛けをすることや、冒険者の邪魔をしてやろうという発想自体が無いのだろう。
でもダンジョンは難易度が高いほどいい評価をされるらしい。それならば汚れ役は俺が喜んで引き受けようじゃないか。
「ダンジョンってどうやって作るんだ?」
俺がそう質問すると、エリンは隣に来て例の画面を目の前に表示させた。ケーブルも無く宙に浮いているそれを見ると、いつか地球にもこの技術ができないかなーなんてことを思ってしまう。
「この画面で指示を出すんです。例えばですね……」
エリンはそう言って宙に浮いているキーボードのようなものをカタカタと操作している。まるで指の一本一本が意思を持っているかのような滑らかさで、エリンが操作する度に画面に文字が次々と並んでいく。
「さあ、これで初心者向けダンジョンにある変化が起こりました。どこか当ててみてくださいねっ!」
とても楽しそうなエリンは鼻歌混じりに、両手を目の前でかざす。すると俺の目の前に、あのダンジョン内部が映った画面とコントローラーが現れた。
俺の目の前にはダンジョンの画面が、エリンの目の前にはプログラムのようなものが書かれた画面がある。ケーブル類は一切無いのでとてもスッキリとしており、俺はまたしても地球の文明のさらなる進歩を願った。
「スタートでーす!」
エリンの弾む声でスタートが切られ、俺はコントローラーを握った。一人称視点なので、プレイヤーキャラの姿は見えない。
まずはダンジョン内部の見た目だが、壁と天井は岩肌で、足元は石畳なので変化無し。
なのでコントローラーのスティックを前へ倒して、ひたすら真っ直ぐ進む。
すると一本道だったはずなのに、左へと分岐する道ができている。
「おお、分岐ルートがある!」
「正解ですっ! 道を増やしてみました!」
果たして何があるんだろうと思い先に進むと、少しひらけた場所に出たものの行き止まりだった。おまけに何も無い。
「あとは何が変わった?」
「それだけですよ? でも散々歩いた挙句行き止まりだったら、冒険者さんがガッカリしますよね。なのでご褒美に宝箱を置けば、きっと喜んでくれますよね!」
「いやもうちょっと何か欲しいな。例えばモンスターとか。試しに出してみてくれないか?」
「うーん、マスターがお望みなら……」
エリンはそう言ってからキーボードを操作すると、画面にモンスターの一覧らしきものが映し出された。アルファベットっぽいもの以外の文字は読めないけど、モンスターのグラフィックなら分かる。
ゴブリンやコボルトなど、おそらくは低級のモンスター一覧なのだろう。
「その中から選ぶわけだ?」
「はい。これはFランクモンスターの一覧なので、Fランク冒険者でも対応できますね。あっ、Fランクというのは7段階のうちの一番下のランクです」
一番下がF、一番上がS。うん、知ってた。
「じゃあ試しにその緑色のモンスターを出してみて」
「わかりました、ゴブリンですね」
(やっぱりゴブリンで合ってるのか)
「準備はよろしいですか?」
「ちょっと待って、これって視点切り替えできたりする? 考えてみれば今どんな武器を装備しているのかすら分からない」
「できますよ。そのコントローラーのボタンをですね——」
エリンに教わった通りに操作すると、視点が三人称視点に切り替わった。プレイヤーキャラの後ろからカメラを回しているような感じだ。つまりプレイヤーキャラやモンスターの全体像や位置関係が見える。
右手に片手剣。左手には鉄製であろう丸い盾。そして
「ちょっと練習させてもらえないか」
俺は操作に慣れるため、いろいろなボタンを試してみた。ボタンは複数あり、それぞれ一回だけ押すと斬り下ろしや水平斬りといった基本モーションが出る。
それ以外にも同時押しや特定の順番で押したり、長押しなどを組み合わせることでコンボが可能となり、さらにそこに移動も加えることにより様々なパターンで攻撃できるようだ。
まるで本当にゲームをしているような感覚。ただ実際に全ての冒険者が同じ動きができるかと言われれば、そんなことはないのだろう。
「よし、始めてくれ」
俺が合図を出しエリンがキーボードを操作すると、画面内に光のエフェクトとともにゴブリンが姿を現した。緑色の肌、右手には棍棒を持っており、俺がイメージした通りの見た目だ。
低級のモンスターに相応しく、ゴブリンはただ俺をめがけて真っ直ぐに向かって来る。
タイミングを見計らい、斬り下ろしからの水平斬りというシンプルな連続攻撃で、あっけなく倒すことができた。
と、まあここまでは日本でもゲームとかでできること。
それならばダンジョンマスターにしかできないことは何なのか? それはやっぱり実際に生身の人間が探索するということだろう。
そして仕掛けに慌てふためく様をワイングラス片手に見物する。なんて素晴らし……悪趣味なんだろうか。
「これって誰かがテストで実際に探索したりする?」
「はい、リーンベル家ではお姉様がその役割を担っています。なんといっても剣聖ですから!」
(剣聖……だと?)
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