第3話 こんなの見せられたら仕方ない
朝。休みなのにも関わらずいつもと同じ時間に目が覚めた。もうすっかり体内時計が出来上がっているようだ。
でもいつもと違うことが一つ。部屋の中で寝ている美少女がいるのだ。名前はエリン・リーンベル。銀髪ロングに日本人離れした端正な顔立ち。本人いわく修行のために家を出たんだとか。
今日は部屋から一歩も出ずに、そのあたりのことを詳しく聞いてみよう。
「ん……あ、おはようございます」
エリンさんが目を覚ましたので、俺も「おはよう」と返した。出勤以外で最後におはようと言ったのっていつだっけ。
この子が今着ている服は俺のTシャツとハーフパンツで、体格差によってダボダボになっている。
「何か食べる?」
「いいんですか? それなら昨日の郷土料理が食べたいです!」
郷土料理て。ただのカップラーメンなんだけど。この子から見ると全部が新鮮に見えることだろう。まあその辺のことは追い追い説明するとして。
「ダンジョンマスターについてもう少し詳しく教えてくれる?」
ローテーブル置いたカップラーメンをそれぞれ食べながら、俺はそんなことを聞いてみた。
どうやら異世界には麺をすするという習慣があまり無いらしく、はふはふと麺を少しずつ噛む様子がなんとも可愛らしい。
「ええっとですね、天然と人工のダンジョンがあるという話は昨日しましたけど、ダンジョンマスターは人工ダンジョンの構造や内装、それにモンスターや宝箱の配置など、きちんと冒険者さんの経験となるように、ダンジョンの中のこと全てを決めることができるんです」
「モンスターを自由に配置することなんてできるの?」
「ダンジョンマスターのスキルがあれば可能ですね。ただし自分が作ったダンジョンの中だけですけど。それに出現モンスターを決められるといっても、階層ごとに指定するのが普通で、ボス以外でピンポイントに配置することは少ないです。でも宝箱は細かな場所を指定してますよ」
なんだかゲームみたいだ。自分で考えたダンジョンを友達にプレイしてもらうようなものかな? 楽しそう。
「確か君はお父様に、ダンジョン作りのセンスが無いって言われたんだよね?」
「はい……。お父様が言うには、私が作ったダンジョンは『ぬるすぎる』らしくって。それにリーンベル家の中で私だけが、18歳になってもマスタースキルを使えるようになりませんでした。申し訳なくてお兄様にもお姉様にも合わせる顔がありません……」
いよいよラノベの追放ものっぽくなってきたな。家族の中で主人公だけが『無能』の烙印を押され、追放される。そしてざまぁ物語へ。
フィクションだと思ってたけど、まさか本当にそんなことがあるなんて。異世界怖い。
「ぬるすぎるダンジョンってどんなの? モンスターが弱かったり、道が簡単だったりして歯応えが無いとか?」
「それが私にはよく分からなくて……。それに口で説明するとなると、何をどう話せばいいのでしょう? ……あっ! それなら実際に見てもらおうと思います。ちょっと隣に来ていただけますか?」
そう促され、俺はローテーブル沿いに隣へと移動した。
「少しお待ちくださいね」
エリンさんはそう言って、目の前の何も無い空間に両手をかざした。するとテレビ画面のようなものが現れ、そこには見たことない文字が書かれている。
画面の大きさは一般的なゲーミングモニターくらい。そして驚くべきことにケーブル類も一切無く、奥行きも感じられず画面だけが独立して宙に浮いている。まるでその空間だけが現実のものではないみたいに。ステータスウインドウがあればきっとこんな感じだろうな。
この子が異世界から来たという物的証拠だ。こんなのを見せられたら、この子の話を完全に信じるしかないじゃないか。
そしてまたもや目の前の空間に、キーボードっぽいものが現れた。エリンさんがそれを操作すると画面が切り替わり、薄暗くて何やら岩でできた洞窟っぽい場所が映っている。
「これが私が作ったダンジョンの一つです。初心者向けなので、攻略が簡単にしてあります」
「まさにダンジョンって雰囲気だな。他の場所も見てみたいから、カメラ移動とかできる?」
「それならご自身で動かしてみますか?」
エリンさんはそう言ってから、またもや空間に手をかざす。するとゲームパッドのようなものが現れた。ケーブルは無く、十字キーにスティック、そして複数のボタン。
「そのコントローラーで操作すると画面の視界が変わって、探索することができますよ」
そう言われ試しにスティックを前に倒してみると、画面の中の景色も前に進んだ。
なるほど、FPS(一人称視点)ゲームってわけか。あまり詳しくないし正確には違うかもしれないけど、キーボードとマウスで操作するのは苦手だから助かった。
さあ、この子が作ったダンジョンはどんな感じだろう?
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