第3話 結ばれた約束
祭りの熱気が冷え始めた深夜、紅葉の舞は静かにクライマックスを迎えた。神社の境内には静寂が戻り、灯篭の揺らめく光だけが紅葉の白い衣を照らしている。彼女は最後の舞を終え、ひと呼吸置くように視線を上げた。その目は再び、あの男性をまっすぐに見つめていた。
観客が静かに解散していく中、彼はその場に留まったまま、紅葉の方に歩み寄るべきか、迷いを感じていた。しかし、彼女の柔らかな微笑みがその躊躇を払拭し、彼の足は自然と彼女のもとへ向かっていた。
二人は誰もいない神社の奥で向かい合い、言葉ではなく視線と静かな呼吸だけで互いの存在を確認した。紅葉はゆっくりと微笑み、神社の奥へと彼を導く。その道すがら、何か古の秘密に触れるかのような神秘的な空気が二人を包み込んでいた。
紅葉は石段の上に立ち、彼に振り返る。「この夜、私たちは何かを交わす運命だったのかもしれません。」その言葉に、彼は何も言わずに頷いた。紅葉の手がそっと彼の手に触れると、彼は驚くほどの温もりを感じ、彼女がただの巫女ではないことを再認識する。彼女の中には、神聖さと共に、この世ならざる妖艶さが宿っていた。
その後、二人は言葉少なに神社の奥で時間を共にした。紅葉は一夜限りの舞の中で、彼に何か大切なものを授けるように、そっと語りかけるように微笑んでいた。彼女の表情には、どこか哀しげで、それでいて満ち足りた美しさが漂っていた。
夜明けが近づき、紅葉は彼に別れを告げた。「祭りはまた来年。けれど、この夜の記憶はずっとあなたの中に残ります。どうか忘れないで。」その言葉と共に、彼女は微笑み、祭壇の向こうへと消えていった。彼は一言も発することなく、その場に立ち尽くし、彼女が去った静かな境内に漂う余韻に身を委ねた。
こうして、鉄板の上で踊る巫女と彼の一夜限りの約束は果たされた。彼の心には、紅葉の舞の記憶が永遠に刻まれ、その夜の情熱が静かに燃え続けることとなる。
鉄板の上で舞う巫女 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます