第40話 係長VSニセ勇者②

 さて、答え合わせ。


 ヤマトタケルだのなんだの、ダサい名前の魔法はまるで自動防御をするように、俺の銃弾に反応してそれを燃やす力を見せた。

 確かに、それだけを見たらこのニセ勇者が言った『ボクに飛び道具が通じると思わないことだね……』と言う言葉も説得力があるもんだ。


 けれど、不思議なことがある。


 なんで俺が最初に投げた鉄パイプは直撃してんだよ。

 

 ヤマトなんちゃらが完璧な防御魔法なら、不意打ちの鉄パイプも防御しているはず。

 まぁ、レグギャヴァギュギャ製の鉄パイプがあまりに屈強で勇者の力だろうと燃やし尽くせなかった可能性もなくはないが……。

 それにしても、炎1つ反応しなかったのは違和感がある。


 なんで、俺がその魔法を見た瞬間に推測したヤマトの性質は以下の2つくらいに絞られる。


① 最初の鉄パイプは銃弾より攻撃力か何かが高かったため防御できなかった、もしくは銃弾より早いから反応できなかった。


② 意識外からの攻撃には対応できない。


 おそらく、最初の時点でこのどっちかだろうと考え、何にしても不用意に近づくことは出来なかった。


 で、俺は情報を探るために、ワザとらしく弱ったふりをしてまでニセ勇者にこの魔法のことを質問したら……。


 ペラペラと魔法のことを得意げに話し始めた。

 流石に、バカだと思った。


 いや、流石にちょっと笑えてきたし、逆に罠や嘘なんじゃないかと分かりやすい挑発をしてみた結果……。


 バカみたいに挑発に乗ってきやがった。

 流石に、アホだと思った。


「さて……」


 俺は嗚咽を漏らしながら、後頭部を抱えて蹲るニセ勇者を眺めながら、どうしたもんかと考える。


「うっ、うぅぅ……」


 いや、もう警戒することもないだろう。

 むしろ、これ以上に痛めつけたら弱い者いじめをしているみたいで嫌になる。別にこれ以上、攻撃する理由もない。

 

 さっさと草薙剣を奪って、3種の神器確保だ。

 仕事は早いことに越したことはない。どうせ後から面倒なことが起きて来るんだから、追われるものはさっさと終わらせるに限る。

 

 そう思い、俺はニセ勇者から草薙剣を取り上げようとすると、


「すぅ……スッゲーーーッッッ!!! カッケェーーーッ!!!」


「……あ?」


 阪神ファンが何か叫んでいる。まるで阪神が優勝寸前と言わんばかりじゃあないか。縁起が悪い。大阪人がVサインをする時は決まってスベるんだ。


「流石は英雄サマだ! なにが勇者だってんだ! 英雄サマにかかりゃ、ものの見事にやられてんじゃねーか! イェーーーイッ!」


 遠くで、阪神ファンがドでかい声でなんか叫んでいる。

 楽しそうで何よりだ。カーネルサンダースの人形を曇天堀に捨てるなよ。38年くらい呪いにかかるからな。


「てか何だよ、英雄って。まーた変な勘違いされてるみたいだな」


 まぁ良いや。

 阪神ファンは嫌いだが、ケモミミは愛らしいからな。こんど適当に言いくるめてモフらせてもらお。


 と、俺が油断していた時だった。


「く、くそぉ!」


 ニセ勇者が振り向きざまに草薙剣を振って、俺に炎の斬撃を飛ばしてくる。


「おっと……」


 いくら不意打ちのつもりでも、考えなしが過ぎる攻撃なんぞ、簡単に避けれる。


 不意打ちが下手以前に、攻撃しながら叫ぶ癖は直した方が良い。

 銃弾の発砲音ならともかく、必殺技を叫びながら攻撃して何の意味があるってんだ。

 これから殴りますよ! って挨拶しながら殴ってくるヤクザがいるか?

 街を守る良い一条楽じゃねぇんだぞ。


 しかし、少し油断した事を後悔したのは、ニセ勇者が振り向いて俺を視界に入れたことで、ヤマトなんとかっていう魔法が発動したことだ。


 俺の体を焦がそうと言わんばかりの炎が襲い掛かる。

 ニセ勇者が意識的に出したものとは違う、どこか自然発生的な炎。コイツの危機感がトリガーとなると推察したが、それにしてもコイツはどこか異様だな。


「うぉっと……マジかこれ……」

  

 今の俺は上着も脱ぎ捨てて半袖で肌を露出している状態。

 過剰な日焼けはご遠慮願いたいところだが……。


「“燃え尽くせ《ファイアリー バァン》!”」

 

 間髪入れず、ニセ勇者が魔法を放つ。

 すると、指向性を持った爆発が俺に襲い掛かった。

 例えるなら、火炎放射器を現代兵器より発射速度を早く、そして威力を倍にしたような威力の魔法だ。


 感嘆に値するけれど、しかしこの期に及んでニセ勇者と俺の視界を遮るような魔法を放つとか……コイツは馬鹿か? 自殺行為だろ。


 俺は呆れながら、その火炎放射を余裕で躱し、ニセ勇者の前から消える。


「どこ……っ!?」


 と、コイツが周囲を見渡す間もなく、俺は鉄パイプをゴルフの要領でフルスイングをし、屈んだニセ勇者の頭を吹き飛ばす。


 やはり人間ゴルフは難しく、ニセ勇者はダートでの撃ち方を間違えたゴルフボールみたいに間抜けな飛び方をしていた。


 いや、待てよ。

 なんでヤマトなんちゃらは不意打ちに弱いくせに、わざわざ視界を遮るだけの強力な魔法を撃ちたがるんだろうと思ってたが……。


 もしかして、コイツ、この防御魔法が不意打ちだと機能しないって事を知らない……?

 と言うか、気づいていない?


「……なんなん? コイツ」


 自分が手に取った道具がどういう性質を持っているのか、考えたこともないのか?

 自分の商売道具がどういうものなのか、調べてもいないのか?

 自分がどんな仕事をしているのか、理解しているのか?


 なのになんでそんな自信満々なんだ……?


「あー、気分悪。さっさと草薙奪って帰ってケルちゃんにご褒美ナデナデしてくるか」


 俺は鉄パイプをしまい、ニセ勇者が右手に握っている草薙剣を奪おうと手にするが、それはなかなかニセ勇者の手から離れなかった。

 ニセ勇者は、まるで親の形見のように草薙剣を離さない。

 つーか、まだ意識あったのか。そういえば、さっきから一般的なタイミーだったら一発で頭が破裂するような一撃を与えてんのに、全く動じる気配がない。

 女神の力で身体能力が底上げされてんのかな。


「わ、た……な……い」

 

 ニセ勇者が掠れた声で何か言っている。


「チッ。っぜーな」


 俺は虫けらの癖に最後まで抵抗してくる姿に腹が立ち、ハンドガンを取り出した。

 さっきまで鬱陶しかった蚊を叩き潰した後、そいつが地面で藻掻いている姿を見たような不快な気分だ。

 活き活きとしていてる姿が鬱陶しくてぶっ殺したのに、力尽きてもなお見っとも無く足掻く姿。

 見るに堪えない。

 さっさと殺すか。


 俺がニセ勇者に銃口を向けた瞬間……。


 何かが俺に向かって、攻撃を仕掛けた。


「!」


 何かが攻撃した。

 それは、一瞬で理解をした。

 

 けれど、どこからそれが放たれたのか、それが何なのか、誰がやったのか、全く分からない。


 ただただ、ただただ、とにかく、何かが俺に攻撃をして、何かが俺に襲ってくる。


「ッ! ……グッ!」


 俺は咄嗟にその場から離れようと後ろに飛び跳ねると、俺の右脇腹に鋭い痛みが走った。


「……矢?」


 一本の矢が、俺の腹を貫いている。

 それも、正面から。


「……」


 どこだ……?

 矢の軌道を予測した先を見ても、そこに人はいない。

 

「キィ坊……大丈夫?」


「!?」


 そいつは、ニセ勇者のすぐ近くにいた。

 

 いや、それより驚くべきことは。


 俺のすぐ近くにもいた。


 その女は、倒れるニセ勇者をひっくり返して仰向けにして、膝に乗せている。


「……誰です?」


「この子の……勇者の姉です」


「そうですか。草薙剣を渡してくれませんか?」


「それは諦めて。これは、この子にとって掛け替えのないものだから」


 じゃあ悪いけど死んでくれ。


 俺はその女に最短、最速のモーションでハンドガンを向け、銃弾を放つ。

 女は反応する様子を見せない。唐突に放たれる銃弾に対し、全く気づいてないようだ。

 このまま額に穴をあけて安らかに死んでほしいと俺は思いながら、飛び放たれた銃弾を見送る。


 すると、銃弾は女をすり抜けて、そのまま虚空に消える。


「!」


 何が起きた? 

 物理攻撃が無効になる魔法の体質とかか……?


 俺はその正体を探るが、その答えが分かる間もなく……。


 俺の視界は突然、光を失う。


「な……!」


 分かった、何が起こったのか、俺は瞬時に理解する。

 

 けれど、対応する間もなく、体の不調が先に来た。

 体が言う事を効かない。指一つ動かすのもままならないし、呼吸すら満足にできない。


 朦朧とする景色を俺は見ながら、それは現れた。


 無数にして、巨大なその女たちが、手にナイフを握り、俺を囲んでいる。


「クソがっ……」

 

 文句を言うが、抵抗できないことは理解している。

 無慈悲に、女たちは俺にナイフを突き刺した。



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