第37話 係長とニセ勇者①
「……マジであの無職、俺たちだけゴーマットに送りやがった」
あのカス無職が別行動と言った後、俺たちがいるゴーマット国のこと、草薙剣の所有者の事、何をするべきかということをざっと説明されたと思いきや……即座に俺とケルちゃん、アイビーさんは八咫鏡の力でゴーマット国にテレポートされた。
あんにゃろ……。
別行動する理由についてはぼかしやがって。
「ここがゴーマット国……」
アイビーさんはケルちゃんを抱きかかえながら、荒廃したゴーマット国の様子を眺めていた。
ゴーマット国。
そこは1000年ほど前は栄えていた大都市だったらしいが、確かコート皇国だったかと戦争したり、続々と現れた魔王軍との戦いとかで政治的なミスを続けた結果、いつしか滅んでしまった国だという。
もう100年以上は国としての機能はしておらず、浮浪者が住み着いている程度である。
景観もボロい小屋が転々としていて、その中央に形骸化した古城が聳え立つのみである。
栄枯盛衰、と言う言葉がよく似合う。昔はそれなりに栄えた国なのは伺えるが、それを支える大黒柱を失ってただ朽ち果てるのみ……という感じだ。
「まぁ、とにかく行きますか。『英雄の遺体』だとか何だか知りませんが……ニセ勇者はそれを狙っているんでしょう。
なら、とりあえずニセ勇者より早くそれを回収しましょう」
「あ、はい!」
俺が小汚いゴーマット国に足を進め始めると、アイビーさんはちょっと焦りながら俺の後に続く。
ちょこちょこちょこ、と小走りでアイビーさんは俺の隣に並ぶので、俺も少し歩幅を揃える。
「それにしても……勇者と戦わないといけないなんて……本当なのでしょうか……」
アイビーさんは怯えるような声で、俺に尋ねた。
「んー、まぁあの無職の話が本当なら、勇者とやらと戦わないといけなくなりますね」
「で、でも……相手はあの勇者で、すよ……?」
「関係ないです。相手が強かろうと何だろうと、とにかく草薙剣を取り返さないとケルちゃんは元の世界に帰れません。
なら、文句を言ってる暇はないです」
「……ユメジ様はやはりお強いですね。私も、貴方をサポートいたします」
気丈に振舞うが、アイビーさんの声は震えていた。
草薙剣は、非正規の方法で勇者となってしまったモノが所有しているらしい。
どうやら、女神が一人の人間を一時的に『勇ましき者』と認めてしまったらしく、彼に勇者の名前と装備の1つを渡してしまったという。
いわばニセ勇者と言うところだが……その実力は勇者に匹敵するとか。
そして、そいつは初代勇者とそのパーティメンバーの遺体を探し出し、その神秘の恩恵を奪い去ろうとしている。
遺体を奪うことで、かつての勇者たちと同じ力を得られるとかで、ニセ勇者はそれによって真の勇者になりたいみたいだ。
彼が今狙っているらしい『英雄の遺体』というのも、1000年前に勇者と共に魔王を倒した伝説の人物の遺体だとか。
要は、墓荒らしってわけだ。
「非正規雇用から正規雇用に足掻く様は美しいと社長も言っていたけれど……ま、申し訳ないけどこっちも仕事なんで、邪魔させて貰わないといけないんだよね」
何者かになりたいってのは社会では根源的欲求だとは思うが、申し訳ないね。
「さて、じゃあ早速だけど、アイビーさんの力を借りたいんだけど……」
「はい……! なんでもお申し付けください」
「一応ですけれど、ニセ勇者の場所、『知るもの』の力で分かったりします?」
「は、はい! やってみます」
アイビーさんは静かに目を閉じ、『知るもの』の力を使って情報を探った。
しかし、彼女はその答えを得た瞬間、少し残念そうな顔をする。
「申し訳ありません……『No Data』、とだけ……」
「まぁ、そうですよね。
じゃあ、英雄の遺体がどこにあるか、分かりますか?」
「はい、念じてみます……!」
やはり、このチート能力の力は万能ではない。
シシロウの話を聞く限り、あくまでも全知の力ではなく、歴代継承者たちに培った知識データの検索エンジンというだけ。
つまり、過去から現在になって変わってしまう情報は探ることができない。
であれば。
ニセ勇者の目的を先回りするのが最適解であろう。
ニセ勇者と鉢合って戦うことになればまぁそれも良し、先んじて遺体の一部とやらを手に入れれば嫌でもニセ勇者と戦うことになる。
それに、いざとなったら遺体と草薙剣を交換する、という交渉をしてもよい。向こうが素直に従うかは知らないが、こっちは勇者だとかどうでもいいし、女神の顔色を伺う必要もないしな。
シシロウが何ていうかは知らないが……付いてこないんだから仕方ない。何をしようと文句を言うな、と突っぱねてやる。
「……!」
と、俺が思案を巡らせていた時。
アイビーさんは、唐突に顔色を変えた。
答えが出たのだろうか。にしても、目を見開いて驚いているのだから、ただ事ではあるまい。
もしかして、ゴーマット国にはないとか?
それだったら確かにかなりヤバいが……。
「生きてます……」
「え?」
「『He alive』……」
ヒー アライブ って……。
アライブって……ええっと、つまり……。
「生きてるの?」
「はい……。1000年前、初代勇者と共に魔王を倒し、時には対立し合った『獣人の英雄』。
彼は、まだ存命です……」
1000年って……確かエルフの老人レベルの寿命ってことだよな?
というか、現代でいうなら、平安時代から生きているようなやつってことか。冷静に考えるとやべーな。
と、俺が感心していた時である。
ドガァンッ!
大地が揺れるほどに激しい爆発音が鳴り響いた。
何事だ、と思って音の鳴る方を見ると、朽ち果てるのを待っていたゴーマット国の城の一部が、真っ赤な炎を上げていた。
「何かがいるな……アイビーさん、行ってみましょう」
俺はアイビーさんの返事を待つことなく、走り出した。
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