第33話 係長と間の日②
「藤堂さん、お気をつけて」
アーチ国の城門にて、クンシィとゴルディが出国をする俺たちを出迎えてくれた。
「うん。クンシィこそ、体を壊さないようにね」
俺は改めて、彼に別れを告げる。
「それにしても、本当によろしいのですか? 馬車で近くの国くらいには送りますけれど……」
「うん。大丈夫大丈夫。しばらくはゆっくり歩きたくてね。」
当然のことだが、女神と会ったことはクンシィに告げていない。
魔法図書館なる場所に行く気はないので、アーチ国の馬車も不要。
申し訳ないが、心苦しいが、ここはクンシィのことを見捨てることとする。
女神のヤツがああ言う以上は、クンシィには本来の歴史と言う奴を辿ってもらうことしよう。13年後には彼も帰れるというのだから、まぁ彼のことを信じるとする。
「それで、藤堂さん。確か、キソガ山の銀郎衆を壊滅してくださったんですよね?」
「あー、うん。多分全員倒したよ」
「初めて聞いたときは半信半疑だったのですが、アーチの調査隊がキソガ山を調べたところ、本当に銀郎衆がキソガ山から撤退しているみたいでした」
「あ、そうなんだ……」
俺は咄嗟に、「そういえばシシロウがあの盗賊たちはお尋ね者だって言ってたな」と言いかけて止めた。
よく考えれば、シシロウの話も控えた方が良いだろう。
「ケルちゃんとアイビーさんが途中で捕まったから、ついでに潰しただけだよ」
「そうなんですね。そういえば最近、ヤリ手の賞金稼ぎが銀郎衆を倒して回っていると聞いていますが、もしかして彼と会ったりしました?」
「ん? ああ、酒カスの無精ひげの奴だな。実際強くて頼りになる奴だったけど、途中で俺の前でゲロ吐いたからムカついてこの国のどっかに放り投げちまった」
察しが良いのか、ただの偶然か、クンシィはおそらくシシロウの話題を上げた。
一応、俺はシシロウについて深くは知らない、という体裁でごまかしておいた。
「トウドウ殿。こちら、少ないですが銀郎衆討伐の報酬金です」
ゴルディは俺に封筒を渡す。
「あ、いいの?」
「当然ですよ。アーチ国もあいつらには厄介に思っていまして。物資の輸送でも護衛を付けなきゃ普通に襲ってくるし、冒険者を集めて討伐しようにもこの国だと魔法使いの類は呼ぶこともできないですしね」
あー、なるほど。
神秘殺しは魔法使い特攻であるがゆえに、アーチ国は魔法使いにこそ強いが、この国の武器を手にした蛮族相手にはなかなか手が出せないんだな。
神秘殺しがなかった時代は、魔法が使えない盗賊相手なら強い魔法使いが殲滅させる、なんてことをすれば簡単に退治できるのだろうが……。
銀郎衆が厄介だと思う気持ちが良く分かる。
「ありがと。俺もここに来たばかりで手持ちがなかったしね。次の街ではちょっと良いご飯食べることにするよ」
「はい。魔法学校でよい情報があったら、またこの国にも寄っていってくださいね」
そう言って、俺はクンシィに手を振って別れる。
アイビーさんは無口で俺についてくる。
「さっきから何も言わないけれど、大丈夫?」
「ご心配いただきありがとうございます。大丈夫ですので……お気になさらず」
少し心配になったが、一応はケルちゃんをちゃんと抱えているので、ただただクンシィたちが嫌いなだけだろう。
「そう」
俺は短く返事しつつ、ちらりと後ろを見る。
クンシィたちはまだ俺のことを見送っている。律儀な子だ。姿が見えなくなるまでは見送るつもりらしい。
けれど、俺とアイビーさんの会話は流石に聞こえないだろう。
「実は、アイビーさんに言わなきゃいけないことがあって……」
この時点で、アイビーさんにもシシロウと女神のことは話していない。
理由は、単純にどんな反応をするか分からなかったから。
女神とシシロウには、あの後でクンシィには絶対に俺と2人があったことを秘密にすることを言われている。
だから、どんな反応をするか分からない彼女には、あえて何も言わなかった。
「単刀直入に言うと、魔法図書館とやらには行かない」
「え!?」
アイビーさんは目を丸くして驚いていた。
「そろそろ場所を移動しましょう」
俺は城門で俺たちを見送っていたクンシィたちの姿が見えなくなるのを確認し、スマホを取り出す。
そして、昨日の着信履歴からシシロウに電話をかけた。
3コールくらいして、電話は繋がった。
「シシロウ。そろそろいいぞ」
「へいへーい。了解や」
シシロウがそう言うと、俺たちはその場からテレポートし、全く知らない街に移動した。
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