第29話 係長と女神⑤

「……帰る方法があるってのは本当ですか?」


 俺はゆっくりと着地した後、女神に尋ねた。

 

「はい。間違いありません」


 女神は真っすぐと視線をこちらに向けて答える。

 少女のような見た目の反面……力強く堂々とした表情だ。


「そもそも、貴方は勇者たちのように私が選んでこの世界にやってきたわけではありません。

 特定の条件を満たしたことで、次元の裂け目からこの世界まで漂流してやってきた……かなりレアなケースでここまでやってきたと言えます」


 特定の条件を満たした……。

 いやまさか、京都ナンバーのトラックに轢かれたこと? 

 いやいや。それだったらかなりの人数がこの世界に迷い込んでいるはず。

 まぁ、そこを探っても意味はないか。


「貴方が俺を呼んだわけではない、ということは理解できました。

 それで、どうやったら俺は元の世界に帰れるんですか?」


「三種の神器。それを集めることができれば、次元の狭間を行き来する事が可能です」


「……なぜそんな物を集める必要が? よく考えれば、貴方は今まで多くの勇者をこの世界に呼んできたんですよね? 帰る方法くらい用意しているはずでしょう。

 まさか呼ぶだけ呼んでおいて、帰り道は用意せず勇者を転生させていたんですか?」


「せやでー。ワイが来た時は帰り道はないから魔王さっさと倒してくれ言われたで」


「! お前……無職のくせに勇者だったのか!?」


「ちゃうで」


 まぁそうだよな。無職だし。


「話を本題に戻します。

 例えとして、この世界は大海原の中にある1つの島だと思ってください。この島は、神秘というエネルギーを使った魔法が発達した島です。

 その島は海で囲まれており、その先には同じような島が無数に存在します。

 その中に、トウドウさんの住んでいた、科学によって発展した島もあるのです」


「で? 貴女は俺たちの島からこの島に人を呼ぶことはできても、元に戻すことはできない、ってことで良いんですね?」


「大昔は……そうでした。初代勇者とその仲間たちを筆頭に、3代目の勇者までは、帰る方法がないまま連れてこられていました」


「今は……違うと」


「はい。時にトウドウさん。

 貴方が海に隔たれた島に向かうため、航海することとなりました。

 必要なものは何だと思いますか?」


「えっと……納期と予算と人材ですかね?」


「……いえ。ちょっと違っていて、『海を移動するための船』、『船を動かすエネルギー』、『それに目的地に行くための地図』です」


「タイミーさんを300人くらい集めて何とかなりませんかね?」


「ならんならん。入らん茶々はやめーや」


 いや、タイミー300倍ならギリギリでイギリスからインドなら行けると思うんだがなぁ……。


「世界から世界を渡る航海の旅。

 その移動手段となる船は、『八咫鏡』。

 そしてエネルギーとなるのが、『草薙の剣』。

 最後に、地図となるのが『八尺瓊勾玉』」


「その3つを集めれば帰れるんですね。

 それで? それはどこにあるのですか?」


「『八咫鏡』はここにあるで」


 そう言って、シシロウは青銅の鏡を見せびらかす。


「それは……ここに来る前に使っていたヤツ……」


「コイツは簡単に言うと、次元に干渉し、テレポート紛いのことができる。確かお前はエルフの集落で空間転移の魔法見とるはずやろ? アレも再現できるで」


 無職がそう言うと、シシロウは姿を消した。


「!?」


 俺は周囲を見渡す。

 すると、背後にいたシシロウが俺に膝カックンした。


「ま、こんな感じや」


「死ね無職」


 ニヤニヤと性格の悪そうな笑みを浮かべる職なしザムライ。

 というか、俺が蹴り飛ばした時に俺と無職の位置が変わったのも、それを使ったってわけか。


 俺は少々のイラつきを覚えつつも、文句の言葉を我慢し話を戻した。


「じゃあ、残りの2つは?」


「まずは『八尺瓊勾玉』。

 これはコート皇国の王族が代々、受け継ぎ、今は皇女の身に宿しております」


「……あのー、女神様の権限でお借りするのとってできそうなんですか?」


「普通の国ならそれもできるのですケド……あの国はちょっと特殊、トイウカ……まぁこの国については、後でシシロウさんに聞いてください……」


 おいどうした。

 なんでゴニョゴニョ言葉になる。


「まぁ勾玉は後回しや。まず狙うは剣の方」


「じゃあその剣はどこに?」


「ゴーマット国の跡地。

 詳しいことはアーチ国を出たら説明したるわ」


 どうやら、今回は二人とも概要だけさらっと説明するつもりらしい。


 ……。


 正直、怪しいと思わざるを得ない。

 まず、三種の神器を集めれば元の世界に帰れる、という言葉が本当なのかどうか。

 会話の中で、大昔は帰る手段はなかったが、今はあると言った。しかし備考欄には三種の神器を集める必要があるという記載付き。

 

 俺が知識がないことを良いことに、良い様に言いくるめているんじゃないか。

 

 だが……。


「分かった。けど、解せないことがあります。一つ、聞いても?」


「はい。何でしょう」


「なぜ、クンシィ・ワンクルを無視し続けているのですか?

 まさか……気づいていない訳じゃないですよね。彼も異世界転生者です。

 彼も俺と同じく、元の世界に帰る意志を持ち、12年間この世界で苦しんできました。

 なぜ、俺にはすぐにコンタクトを取って来たくせに、彼には音沙汰なし何ですか?」


「……そうですね。

 私も彼のことは以前から目には付けてきましたが……彼を元の世界に返すわけにはいきません」


「ほう。すると貴方は、彼に何も説明しないままこの世界に拉致したということですか。

 なるほど、素晴らしい女神さまだ。秩序と慈愛の女神様……でしたっけ、マリトゥワ様」


 俺は皮肉を言い、女神を睨む。

 すると、女神は物悲し気な表情をしていた。

 ……そんな反応をされると、弱い者イジメをしている気分になる。


「ずいぶんと、クンシィのことを気に入ったみたいやな。息子として鼻が高いわ」


「別に……お前と違って、小さいのに社会貢献に尽しているから報われるべきだと思っただけ……おい、待て。息子……?」


「せや。ワイはお前が生きていた200年後の日本から来たオーサカ志士で。2197年生まれで、あの人のの息子や」


 200年後? 2197年? オーサカ志士?

 何いってんだコイツ……色々と情報量が多すぎて頭が追いつかない。


「あの人はまだこの世界でやることがあるんや。

 まぁ安心せえ、歴史通りに進めば13年後にはあの人も三種の神器に辿り着いて、元の世界に帰る」


「察するに、この世界の為にあの子は後13年も囚われ続けるってことか? こんな未練もない世界のために」


「いや。現代の歴史で重要人物やねん。

 2053年に人類が滅びかけるんやけど、あの人が人類を新しい姿にすることになっとる。

 その為に、あの人はこの世界でもうちょい頑張ってもらって、三種の神器を現代に持って返って貰わなアカン」


 ……頭が頭痛で痛くなってきた。

 スケールが急に大きくなった上に、意味が分からない。新情報の暴力だ。

 唐突すぎる。伏線もなかったし……説得力がない。


「もういい、この世界でなにが起こってるのか、未来でなにがあるのか、もうたくさんだ。

 三流小説家の伏線貼りみたいな説明ももう良い。

 最後に確認するが、本当に俺とケルちゃんは三種の神器ってやつを集めれば帰れるんだな? クンシィもちゃんと13年後に帰れるんだな?」


「安心せえ、約束したる」


「私からも、改めて確約いたします。

 貴方とその子ネコは、三種の神器の力を使えば必ず元の世界へ帰れます」


「もし二人が嘘をついているのなら……その時は俺は魔王としてこの世界で虐殺の限りを尽くしますよ。

 勇者が何だか知りませんけど、送り込まれる転生者どもも全員殺します。

 良いですね?」


「構わん構わん。ま、ちゃんとブツを用意できれば、の話やけどな」


 シシロウは余裕ぶったようにしている。

 いつかコイツの鼻をへし折ってやる。


「さて、話もまとまってきたところですが、もう一つお話することがございます」


「もう長い話は嫌ですよ」


「長い話になるかはトウドウさん次第ですが……」


 マリトゥワ女神さんは苦笑いを見せた。


「貴方は、ここまで上手く生き残ってみせましたが、現代人です。

 魔法も使えませんし勇者の剣のように強力な武器もありません」


「魔法が撃てない……? こいつ口からビームとか放ったで?」


「レグギャヴァキャヴュギャ製の鉄パイプが勇者の剣に劣るっていいたいんですか?」


「あの、余計なノイズを入れてくるの止めてください。理解不能なのを誤魔化して話を進めているんですから」


 なんかごめんなさい。


「ゴホン! それで、話というのはですね。


 トウドウさん、貴方にチート能力を付与したいと考えています」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る