第27話 係長と女神③
俺はクンシィたちとご飯を共にした後、彼らと別れ、旅館の部屋に戻ってすぐ、アイビーさんにケルちゃんのお世話を任せ少し外出することを彼女に伝えた。
アイビーさんは突然、外出をする俺を不審に思い、理由を尋ねられたが……とりあえず機会ができたら説明をする、とだけ答えた。
それでもアイビーさんは食い下がったので、「え? 言うこと聞けないの?」と睨んだら彼女は黙った。
そろそろDV臭くなってきた。パワハラは自身の強さを誇示する行為なので良い行いだが、セクハラは弱い女性を痛めつける卑劣な行為なのでやりたくはない。いつかは、この関係にも終止符を打てると良いんだけれど。
とまぁ、とりあえず俺はシシロウの言っていた居酒屋にまで足を運ぶ。
その辺りの街並みは歓楽街、という感じで、ファンタジー的な世界とは思えない光景だった。ぶっちゃけ、青森とかよりは全然、発展している国なんじゃないかと思うくらいだ。
俺はそんな景色を眺めながら、居酒屋に入店する。
すると、店員と思われる女性が俺に声をかける。
「いらっしゃいませ~。何名様でしょうか」
「えっと、待ち合わせをしていて……」
「はい、どちら様とでしょうか」
俺が店内を見渡すと……。
「ジュボボボッ! 二日酔い明け焼酎キモTィ!(クソデカボイス) ハフッハッハッ! ギュチャギュチャギュチャギュチャ。チャーハン旨いンゴ! あり得ん良さ味が深いw こんな旨いチャーハンを作って恥ずかしくないの? おっ、姉ちゃんええ尻しとんなぁ! ここで美尻を一摘まみっと。美味チャー(美味チャーハンの略)と美尻姉ちゃんが合わさり最つよに見える」
ヤバい奴が店にいた。
酒をすする音、飯を咀嚼する音はゴキブリがゴミを漁る音を最大最高音質で出力したか思うほど下劣で汚らしい。
他のお客さんたちも、流石に無職の奇行にドン引きしつつ、飯の味が悪そうな顔をしていた。
「……すいません。店間違えました」
凄い汚い光景が見えたので、俺はもうこの世界から帰還することを諦めて退店しようと思った矢先である。
「おっ! 係長来たやん! おーい! ブラック企業のカス係長! お前もどうや、ええ揉み心地の尻があるんやけど揉んでかへんかー!?」
「ちょっと、やめてください……!」
シシロウが、俺を見るなり声をかけてきやがった。
「死ね無職」
俺は女性店員の尻を揉んでは離さないカスに気さくな挨拶をした。
可哀そうに、揉まれている女の子は嫌な思いをしている。
「……お知合いですか?」
店員さんが俺に尋ねる。
「何です? この状況で尻とお知合いをかけたギャグですか? 冗談にしても面白くないですよ」
「あの、こっちはあのお客さんにかなり迷惑しておりまして……ほんと、すっとぼけるのもいい加減にして欲しいくらいなんですけど、さっさと追い出してくれません……?」
「知りませんよ」
「尻とかけたギャグですか? 冗談にしても面白くないですよ」
んだこの店員。
入店早々にこの態度をしてくるとか日本じゃ考えられねぇな。今度、クンシィに苦情入れてやる。
俺の権限でこの店潰すことだってできるんだぞ。
「チッ、何だよクソが。分かったよ分かった、俺がやればいいんだろ? 俺がやればさぁ! 本来はァ! お前のォ! 仕事だったものをォ! 俺がァ! やればァ! いいんだなァ!? どうせお前にはできないもんなァ! 何のために給料もらってここにいるんだろうなお前はァ!」
会社の新人育成研修で習った丁寧な言葉遣いで店員に話しかけると、彼女は涙を流していた。
俺の情熱が伝わったみたいで、大きな声を出した甲斐があったものだと思う。
「おいユメジィ! なにたじろいどんねん! いや、分かっとんで? ぼうっと立っているようで下半身はボッ立ちしとんやろ? わーっとるわーっとる。隠さんでええねん。その勇ましい下半身も拡散でええねん。
おら! ワイは右尻担当するからお前は左の尻を攻略せい。一緒に、この山を登頂して、いつかお前と絶頂の景色を見るんや」
俺は数メーター離れた位置にいる馬鹿に飛び膝蹴りを与えた。
酒に溺れていて油断していた無職は、一升瓶片手に吹き飛んでいき、壁を貫いて外へ追い出されることになった。
「おい、これで良いんだろ?」
「は、はい……」
良いことをした後は気持ちがいい。
係長に舐めた口をきいた店員さんは素直に答える。
壁を破壊されて何か文句でも言われたら面倒だなぁ、文句言われたら殴って黙らせるか、と思っていたところだが……穏便に黙らせてよかった。
さて。
店のことは収まったので、問題はこのバカのことだ。
「何すんねん!」
どうやら、無職は生きていたらしい。
吹き飛んだ先にあった廃棄ごみの山で抗議の声を上げている。
そのまま死ねばよかったのになぁ。
「いや、社会のゴミは処分すべきだという社会人特有の感情が出てきてしまってな」
「SDGs! 持続可能な開発目標のない組織は廃れるで!」
「舐めんなよ。俺の会社もSDGsの活動くらいしてるわボケ」
「なんや。お前の会社、けっこう頑張っとるやん」
「ああ、この鉄パイプを見て見ろ。くだらねー役にも立たねータイミーのカスどもを生きたまま溶炉に突き落として約2000℃で熱し、成形することでできたレグギャヴァキャヴュギャ株式会社の傑作だ。
製鉄の過程で人体の成分が混ざると脆くなるなんて知識人気取りは騙るが、この鉄パイプは俺がちょっと強く握ればその分だけ強くなるぞ。まるでパワハラしてるみたいにな。
無能を再利用して鉄の塊として社会貢献するわが社の涙ぐましい努力に涙を流せクソ無職」
「お前んとこの会社への恐怖で泣きそうやわ」
無職は社会経験の薄さからか、思っていた反応とは違うが……まぁいい。
「とりあえず、こんな状況になったんや。しゃあない。酔い覚めしてもうたから、本題に入るか」
そう言って、無職はその汚らしくも背中に背負っていた革袋から、鏡のようなものを取り出した。
「なんだそれ……」
と俺が聞いて間もなく。
世界は、真っ白な空間になった。
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