第26話 係長と女神②
「……」
異世界にて突然起こったスマホの着信。
咄嗟に手に取って見て見ると、非通知着信だった。
普通なら、スルーして見て見ぬふりをするところだろう。
怪しい営業や中国人からの国際電話の可能性がある訳で、応答するだけ無駄な話……と思うところだが。
「いつもお世話になっています。レグギャヴァキャヴュギャ株式会社 藤堂が承ります」
俺の行動は早かった。
クンシィたちにこの異常性を知らせて共有するべきかとも思ったが……この行動力早さは幸運だったと言っていい。
いや……後のことを思うと……これもアイツにとっては、計算通りだったのかもしれない。
「よーっす、係長。よくもワイの事を馬車から振り落としやがったな」
「!?」
この軽薄で社会経験の少なそうなその口調。
社会経験の多い俺は、すぐに察した。
「シシ……ロウ?」
「せやで」
困惑気味に尋ねた言葉に、シシロウは端的に答える。
何から聞くべきか。
この混乱に満ちた状況下に対して、俺は言葉に迷っていたが……シシロウの言葉は早かった。
「ええか? まず、この電話があったことはお前以外の奴に伝えんなや。当然、クンシィにもな」
「……」
こいつは、この世界で
当然、それを呑むということは、この世界に対して知識の低い俺の判断能力を削ぐのと同等である。
「ワイの指示通り動いたら、女神に会わせたる」
「……!」
俺の中で、これ以上になく心に動く言葉が出てきた。
転生と言う形で俺たちとの世界に干渉する存在……俺が今すぐにでも文句を言い、できるなら
2,3発はぶん殴ってやりたかった相手に、この無職はパイプ役をするという。
迷うことがあるだろうか。
「良いよ。何をして欲しいの?」
「せやな……。まずはその場で3回、回ってワンって叫べや」
俺は三回、回った。
「ワン!!!!!!!!」
「こいつ何の躊躇もなくやりおった……」
指示通り動いてやったというのに、ドン引きするシシロウ。
お前の言った通り動いたのに、何が不満なんだよ。
「んで、身代金はいくら欲しいんだよ。どうせシシロウの無職はそれが狙い何だろ?」
「逆や。ワイは無職のシシロウや。てかなんや身代金って」
無職はどうせ変わらないんだから関係ないだろ。
それに無職がする電話と言ったら犯罪しかあるまい。
「こういう形で連絡を取って来たからには、俺に何かやってほしいことがあるんだろ? それも、クンシィやアイビーさんには伝えられないことで。
でなきゃ、わざわざ俺が1人のタイミングで電話をしてくるとは思えない。
お前、見てるな?」
「ほーん。察しええやん。流石は係長や」
無職は感心したように言う。
俺が一人になったタイミングでスマホに電話をして、クンシィにこのことを伝えないように言うような発言から推察するに……。
そもそも、クンシィの前で電話を取れば、彼は確実に不審に思うはず。
なら、クンシィのいない、俺が一人になったタイミングをシシロウは狙ったとしか思えない。
「お前、どこにいんの?」
「一応、すぐ近くにおるで」
……。
気配を探るが、それらしいものはない。
やはり、気配を探るのは苦手だ。
「まぁ待ち合わせしようや。最初に入って来たこの国の城門があるやろ。その辺にあるネオンの照明が目立つ居酒屋にワイはおるから」
「今すぐお前のふざけた顔面をもっと面白くしに行ってやる。待ってろ」
「んー、それも面白そうやけど」
シシロウは俺の挑発を小馬鹿にするように笑いつつ、
「どうせなら、もっとのんびりお酒を呑んでいけや。どうせ、お前は明日も強制的に異世界出張による有給休暇やろ。明日の朝も無理に朝早く起きる必要もあらへんねん」
「……」
俺はあの無職を睨みたいと思う視線を虚空に刻みつつ、
「まぁいい。お前の思惑は知らないが、待ってろ。逃げたら人生を早期退職させてるからな」
「へーへー。どっちが脅してるのか分らんくなって来たわ。
まぁええ。ワイも出来上げて来るから、お前も呑むだけ飲んで来いや。呑みは二次会からが一番楽しいいからな」
呑み会が楽しいなんて無職は人生が気楽でいいな。
まぁいい。
俺は黙って電話を切り、何事もなかったように、クンシィたちの元に戻った。
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