第23話 係長と転生者③

 時はまた変わって、俺とクンシィは雑談に興じていた。


「はっっっ!?!??!!??! 松井優征先生の新作が完結までアニメ化もドラマ化もやった!?!?!???」


「うん」


 クンシィは『魔人探偵脳噛ネウロ』の大ファンであり、その次回作の『暗殺教室』の連載が始まる前にこの世界に来てしまったということで……ずいぶんとその漫画について気になっていたようだが。

 異常に食いついてきた。


「嘘言わないで下さいよ! 松井優征先生ってのはね、宮〇駿をブリッジしながらゴキブリみたいな動きで女児に近寄るロリコンのように表現して殺したくらい、イカれた漫画家なんですよ!? テレビ局からの圧力で暗殺されて不審死したなんて言われたほうがまだ納得できるんですけど?!?!?!!??!」


「ちなみにその後の次回作のアニメ化も決まった」


「次回作!?!??? 3連載連続アニメ化……?!?!?!!?? あの人、ガチの天才だと思てたけどガチ天才だったの!?!???!」


 この子の反応、おもろ。


「ちな、こち亀は何年か前に終わった」


「えっっっ!?!? あれって終わりがある系の漫画だったの!??!?」


「笑っていいともも終わったよ」


「えっっ!?!?  地球大丈夫!?!?!? 天変地異とか起きてないですか!?!?!?」


 こち亀と笑っていいともが終わったら、地球が滅ぶと思っていたのか、2012年の時代では……。

 俺が小学生の頃だったが……いや、今思えば、こち亀や笑っていいともがこの世からなくなるなんて想像もしていなかった気がする。


「分かりました、もう良いです、わーかりました。もう良いですから。

 これ以上のネタバレは止めてください。ほんと、止めてくださいね! これ以上は僕の心臓が持たないですし……。

 そろそろ、本題に戻りましょう。この世界から戻るための方法、それが我々が真に追求すべき目的でしたよね」


「ハルヒ、12年ぶりに新作出たよ」


「ギャアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ谷川先生生きたたんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????!?!??!?!?!?!?!?!?!??!」


 こいつクソおもろいな。


「クンシィ!? 先ほどから悲鳴が聞こえますが大丈夫ですか!?」


「大丈夫じゃないかも」


 突然、外で待機していた案内人が、慌てて部屋に突入してきたのを見て、俺もちょっと同情気味になりつつも……。


「エヴァ、やっと映画完結した。10年以上待たせたけど」


「ンガアぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッxtルッッッッッッゥtッッッッ! 殺してくれえええええええッッッッ! いっそごろぢでくれッッッッッッ! 庵野は体を大事にしてああああああああああああああああああああああxtルッッッッッッ!」


「貴様ッ! 我らの英雄に呪いの言葉をかけたな!?」


「かけてないです」

 

 俺が2024年の情報を吐くたびに、手足の生えた芋虫がメスに求愛をしているような動きをしているクンシィ。

 そんな彼の様子を見て、過酷な拷問でもしていると思ったのか、案内人は銃を取り出すほど取り乱していた。


「待って、誤解だからね」


「何が誤解か! そこのクンシィの姿を見て見ろ! 干からびながらも藻掻き苦しむミミズのようではないか! 貴様、我が英雄に呪いの言葉を撃ったな!?」


「だから誤……」


 と、俺が弁明をする暇も与えず、案内人は銃を発砲した。


「ギャアッ! ちょっと待て! 弁解くらいさせろ!」


「うるさい! 我らがクンシィ・ワンクルを死にかけの虫みたいな状態にしたこと、絶対に許さん!」


 パンッ! パンパンパンッ! と、案内人は銃を俺に発砲し始めた。

 避けるのは余裕だが、案内人の表情は血迷っているので、流石に怖い。仮想通貨で一発逆転を狙おうと全財産をブッパしたがいいけれど大損こく寸前みたいな顔をしながら、俺に銃を向ける。


「お、おいクンシィ! こいつをなんとかしてくれよ!」


 俺は不細工な顔でクンシィに助けを求めたが……。

 彼は体をピクピクしながら倒れていた。

 役に立たない奴だな……!


「お前なにくたばってんだ! 球磨川先輩がアニメの主役張ったグッドルーザー球磨川も見ないでくたばるつもりか!? 声優は緒方だぞ!?

 ンナところでくたばってんじゃねぇ! 生き返れ!」


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ! 球磨川先輩がアニメ化してシンジくんが担当しているゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!7!」


「貴様ァ!! さらに呪いの言葉をかけたなァ!!!」


 誤解だ、俺は未来の世界のネタバレをしただけで……。

 と、言っても案内人の怒りは収まらない。


「クンシィの悲鳴が聞こえましたが、何がありました!?」


 彼の悲鳴を聞いて、偽クンシィが慌てた様子でやってきた。

 そして、身悶えしながら震え縮こまっているクンシィと、怒り狂い銃を乱射する案内人、そして俺がそれを必死に躱している状況を見るなり……


「なんですがこの状況」


 と、呆れていた。


「ゴルディさん! この男が、クンシィに呪いをかけているのです!」


「誤解だって! 俺はただネタバレをしてただけで……例えばナルトとヒナタが結婚して、次回作では2人の息子とサスケとサクラの娘が主役の漫画がやってるとか!」


「ぐぅぃああああああああああああ! そう言うナルサスもあるのがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?」


「ゴルディさん! 見ましたか!? コイツはこのようにしてクンシィを苦しめています!」


 案内人は偽クンシィ改め、ゴルディに言いながら、俺に2,3発の銃弾を飛ばしていた。

 俺はそれを鉄パイプで弾いて防ぐ。


「……神秘殺しの満ちたこの国で、呪いなんて放てるわけ無いでしょう」


 そうだそうだ。

 言ってやれゴルディ。


「じゃあなんですか! 我らを救った科学の叡智を象徴した、クンシィ・ワンクルともあろうお方が、こんなよくわからない男の囁きに身悶え絶頂してしまうというのですか!?」


「うん、そうだよ」


「ンナ訳あるかぁ! 我らが英雄によくも! 」


 案内人はもはや独走状態。

 俺は銃弾を弾き、躱し、逃げ回る。


「……クンシィがこんなに楽しそうにしているところ、久々に見ました」


 久々ってことは、昔はちょくちょく絶頂悶絶してたの? この子。


「あれが……クンシィ・ワンクル……?」


 ゴルディの後ろから、アイビーさんが顔を覗いていた。

 ケルちゃんも連れている……危ないから下がっていてほしい。


「ユメジ様が……クンシィを拷問しています……!」


 あっちはあっちで、自分の世界で盛り上がっていた。

 いや、助けてくれるとは思ってはなかったが、それにしても斜め上の反応をしている。


「……まぁ、楽しそうなら何よりです」


 やれやれ、という感じでゴルディは呟いていた。


「ちょっ! 助けろって!? 明らかにそこで荒れ狂ってる奴、ヒート・アップしてんだろ!? おいクンシィ! キノの師匠の本名? のネタバレされたくなきゃさっさと起きやがれ!」


「グァァァァァァァィァァ!!??! アレって本名あるんかぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいいい!!!???!?!」 


「貴様ァァァァ!! この期に及んでェェェェェェ!!!」

 


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