第12話 係長 VS 盗賊団⑤

「言われた通り、最初の奴ら以外は全員殺さずに、縄で拘束したで。んで、どーするん?」


「拷問する」


「えぇ……コイツ怖っ……」


 シシロウが泣き言を言っているが、涙を流している暇なんてない。

 こっちは、一分一秒が惜しいんだ。


「銀狼衆のアジトがそれなりに広いなら、ちゃんと目的地が分かってないと駄目だろ? なら拷問してちゃんとケルちゃんの場所を調べておかないといけないじゃん」


「さも当然のように気が触れとる。侘び寂びかな?」


 シシロウは風流を感じていた。

 無職は気が楽でいいな。


 そんな時である。


「へっ、馬鹿が。俺たちを誰だと思ってやがる」


 盗賊の一人が下品な顔で俺に意見してきた。


「俺たちはならずものだが、これでもならず者なりの矜持がある。簡単に口を割るなんて……」


 パァン! と、発砲音が響き渡る。

 意見をした盗賊は、俺のハンドガンで額に穴が開いて倒れる。


「時間がない、手短に拷問をしよう」


 こういう反抗的な奴はとりあえず黙らせる。

 手っ取り早いのは恫喝だが、本当に時間がない時はとりあえず殴る。一番良いのは頭だ。思考がボンヤリとして余計なことを考えなくできるからな。


 まぁ、今回はついカッとなって殺しちゃったけど。

 

「良いかお前ら! これから拷問を行う!」


 朝礼ぐらいの発声量で俺は盗賊改め社会不適合者たちに声をかける。

 人数は大体30人くらいだろうか。死体は除外するとして。


「お前らが話すべき情報は2つ! 『お前らのアジトに連れ込んだ女の子がどこにいるのか!』 それと『このアジトの出口はここ以外にあるのか』だ!」


 最初の話はともかく、2つ目の情報が知りたい理由は、単純に中にいる盗賊どもに逃げ場があるのかが知りたかった。


 もし、それがあるとしたら、こいつらが逃げるついでにケルちゃんを連れ去ってどこかに雲隠れ、なんてこともあり得る。

 だから、アジトに乗り込むとなれば、確実に盗賊どもを殲滅するため、出入り口は封鎖しておきたい。


「女はアジトの東側にある地下室に監禁した! 出入口はここしかねぇ!」


「まだ拷問してないだろ黙れ」


 俺は口を出してきた若くてチビの盗賊を撃ち殺した。

 

「今の発言、多分真実やで」


「それを証明できる証拠がない。お前、Excelの計算とか鵜呑みにするタイプか? 普通はそろばんで計算が合ってるか計算するよな?」

 

 おそらく無職の意見を、俺は一蹴した。

 こういう奴が仕事できないんだよな。

 

「改めて言う、俺は拷問の極意は知らん! どうすればお前らが苦痛に耐えかねて情報を吐くのかはわからん!」


「はぁ……? 何言ってんだコイツ」


「上司が喋ってるんだぞ死後は慎め」


 俺は今喋った奴の額を撃ち抜く。

 もう面倒くさいからハンドガンは手に持っておこう。


「先生! ワイはなんか怖くなってきたので帰ってもええですか!?」


「黙れ」


 俺は反射的に味方のシシロウを撃ってしまった。

 やっちゃったかな? と思ってシシロウに目をやると、ちゃんと弾丸は躱したみたいだから良かった。


「そして何より、俺は現代人だ。お前らみたいな反社会的行為がかっこいいと思って盗賊をやってる奴とは違う。

 俺は正社員であり、係長だ。

 日本で生まれ、日本で育った。

 生まれたころから空気の成分の78%は常識でできている世界で育ってきた。

 拷問などという非人道的行為は、俺も心が痛む」


 どの口で……みたいな顔をした盗賊がいたが、俺は無視した。

 さすがに残機が減ってきたし。


「だから、できるだけ俺が楽しくなれるような拷問をすることにする!」


「は?」


 シシロウは意味が分かってないみたいで、間抜けな声を上げていた。


「シシロウ! お前Queenの『We will rock you』は知ってるか?」


「え、まぁそりゃあ名曲やし」


 流石の異世界人でも、Queenは知っているらしい。

 そりゃあ、名曲だもんな。異世界人であっても知ってて当然だ。


「じゃあ、『We will rock you』の【ドッドッカッ!】ってリズムを、【爪を剥ぐ剥ぐ指を折る】ってリズムを表現できるよな?」


「そんな流麗なリズムで拷問できるか」


「限界を超えろ無職。できなきゃそれがお前の限界だ。とっとと死ね。迷惑だ」


「パワーハラスメントの役満やめーや」


 俺は反射的にシシロウに威嚇射撃をして脅そうとするが、彼は一切ビビってない。

 まぁ、銃を普通に躱す奴だしな。


「でもそこまで煽られたら男としてやるしかないな」


 なんだコイツ、意外と根性あるな。


☆☆☆


「準備ええで」


 シシロウが1人の盗賊の手首を掴み、俺に言う。

 俺はスマホのプレイリストからQueenの『We will rock you』を選択。

 音量は最大。シシロウがたまたま持っていたブルートゥーススピーカとの接続も完了。


「行くぞシシロウ、カウントダウンの0でスタートだからな」


「よし、いつでも来いや」

 

「3……2……1……0」


 0のカウントを発すると、俺はすかさず『We will rock you』の再生ボタンを押す。


 ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ!


「グアアァァァァァァァァッ!!?!?!?!」


 爪を4つ、指を2つ潰された盗賊が苦悶の表情を上げて叫ぶ。

 けれど、音楽は止まらない。


 ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ!


「アアアアアアッ! ヤ、ヤメテク……!」


 必死に叫ぶが、この辺りで指の爪を全部飛ばしてしまったので、シシロウは足の指を弾いた。


 ブチッ! ブチッ! ゴキッ!ブチッ! ブチッ! ゴキッ!ブチッ! ブチッ! ゴキッ!


「ァアアアアアア!!!!?!??!」


 盗賊が白目を向いて、口から泡を吐いて失神した。

 指8本、爪を16本潰されたまま、倒れ落ちる。


 まぁ、こんな情報を出さないカスに要はない。

 それよりも、もうすぐ歌パートが来る。


 さぁ、この異世界に俺のロックを響かせようじゃないか。


「ばりよぉわぼー! めかびっくのー! プレイーストー! ごなびーまんまー!」


「英語歌えてへんやんけ」


「アアアアアアッ!!!!!!」


 シシロウは2人目になった盗賊の指をブチッ! ブチッ! ゴキッ!と剥ぐ剥ぐ折るのリズムで拷問を続けながら、俺の歌にケチをつけていた。

 仕方ないだろ。英語わかんないもん。


「まだーやフェイス! ビッグディスフェイス!」


「『You got mud on your face, you big disgrace』な」


 ゴキッ! とシシロウが盗賊の指を折ると、オーディエンスが「ンッアアッ!!」 と白目を剥きながら声を上げた。

 何だろうこの高揚感は。

 俺の為にリズムを刻む無職がいて、俺の為に歓声を上げる反社がいる。


 もしかして、ここが俺にとっての、武道館ライブなのかもしれない。


「ききっやーきゃーのーおれおれ~」


「分かった! 女の居場所だろ!? さっきも言ったがアジトに入って東に進んだところの地下室だ!」

「間違いねぇ! 俺も見た! アジトの出入り口もここしかねぇ!」

「何なら女も返すからよォ! もうやめてくれ!」


 爪剥ぎ待ちの盗賊たちが、ステージのボルテージを盛り上げるように、俺の鼓動を高めるように、シャウトする。


 会場のみんな、ありがとう。

 

 さて、ロックはここからだ。


「Singin……」


 俺は嵐の前の静けさを表現するように、盗賊たちに答える。

 彼らの表情は期待と希望に満ち溢れているのか、成熟を待つ青リンゴのように青ざめていた。


「We will ! We will rock you!」


ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ!


「ギャアアッ! 痛ッってええぇよォ!」

「なんでだよォ! もう話しただろうが!」

「この悪魔がッ! なんでこんなことするんだよォ!!!>¥¥?」


「We will ! We will rock you!!」


ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ! ブチッ! ブチッ! ゴキッ!


「アアアアアアッ! やめろ、もう止めてくれッ!」


 盗賊の爪が宙に舞い、血しぶきがそれを追う。

 

「ばりやなやーまん! はーまん! しゃりしゅと、ごーうにゃぬにゃ……」


「夢路、もっとちゃんと歌いなさい」


「うるさい」


 音響担当がさっきから煩い。


「やらーらふぇす!」


 ブチッ! ブチッ! ゴキッ!のリズムでまた、悲鳴の歓声が鳴る。


「う、うわあああッ!」


 盗賊の1人が逃げ出そうとしたので、俺は手に持っていたハンドガンでそいつを撃つ。

 右足を撃たれた彼は、そのまま地面に伏す。


「ビッグディスグレス!」


「止めてくれ! もう情報は話したじゃないか!」


「どんまい。堪忍しいや」


 怯える盗賊の手首を、優しく掴むシシロウ。


「ウェユニバーオー! おれおれ~」


「止めッ! グアアアッッッッ!」


 爪が1つ、2つと飛び、指があり得ない方向に折れて、ゴキッ! と良く響く。

 

「We will ! We will rock you!!」


「ギャアアッ! やだ! もう殺してくれッ!」

「アッアアッ……」

「女神様……どうかお助けを……」


「Singing!」


 俺のロックが、このキソガ山を越えて、この世界全てに届くよう、これを振り絞って叫ぶ。

 異世界よ、聞こえているか。

 俺が、この世界をロックにしてやる。

 

「ちなみに、今ところは『Singing』やなくて、『Sing it out』なんやけどな」


 へー、そうなんだ。

 ずっと勘違いしてたなぁ、と思いつつ、俺は再びロックを響かせる。


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