第3話 係長 VS オーク②
さてさて。
夢路とケルが異世界転移して戸惑っている最中のこと。
夢路とケルは知る由もないが、彼らが転移してきた先は、ちょうどエルフの集落にオークの軍隊が進軍しているところだった。
そんなエルフが住むヤヤヤ山の麓にて、1人のエルフがオークに囚われている。
そのエルフの名前はアイビー・ガーネット
煌びやかな銀色の髪はエルフ特有の神秘が乗っているのか、とても美しく光っていて、静謐で穏やかな印象の少女だ。
彼女はオークの集団に捕らわれているというのに物怖じせず、冷静な様子だった。
「コイツがエルフ軍の精鋭か。ただ一人で我らオーク軍に立ち向かうとは……その健闘は見事だ」
オークの長のような風格がある怪物は、拘束されたエルフの少女を見ながら、感心したように言う。
当のアイビーの方は、鎖の魔法をかけられているからか、無抵抗で、それでいて無関心そうな表情をしていた。
「殺すなら……どうぞお好きに」
彼女は素直だった。
凶暴なオークたちに怯えることなく、毅然として言う。
「潔いな。その身一つで我が同胞を10体も葬ったその神秘の力、それを認めて恩赦を図りたいが……その温情は我が同胞への侮辱となる。
よって貴様に敬意を表し、その亡骸はヤヤヤ山を征服後、神秘の力の一部として存分に振るってやろう。オーク王国復権のためにもな」
不敵な笑みを浮かべるオークの長。
それに対し、アイビーは少し嫌悪感を混ぜた表情をしつつ、言い返した。
「私たちエルフは、誰にも迷惑もかけず、静かに暮らしてきました。貴方たちオークにも、迷惑をかけた覚え在りません、この1000年間、お互いの領域を侵害せず、均衡を保ってきたはずです。なぜ、それを破ろうとするのでしょうか……」
「それは、エルフのお前が良く分かっていることだろう。アーチ国の神秘殺しにより、エルフは力を失っている。これまでのエルフであれば、お前ひとりでも我らオーク軍を撤退するに相応しい神秘を魅せたかもしれない。
けれど、そうはならなかった。エルフたちは、もうその神秘の力を失ってしまいつつあるのだ」
オークの長がエルフを軽んじるような言葉を放つと、それを侮辱的に感じたのか、アイビーは少し怒りを示すように言う。
「私たちエルフを侮辱しないで下さい」
「では、その鎖を解いて見せろ」
「……」
アイビーは悔し気に鎖を引き裂こうとするが、敵わない。
オークの王が言う、神秘殺しの力もあるのだろうか、魔法のエキスパートであるエルフでも鎖を解き放てないようだ。
「やはり神秘殺しの鎖の前では、かの高名なエルフ族も型なしか。喜べ、その神秘の身は我が喰らってやろう」
「……」
エルフの躰は、濃厚な神秘を宿しており、オークや魔法使いにとっては潤沢な魔力の塊みたいなものである。
それはまるで人魚の肉のように、それを食えば強い力を得る。
このオークの長も、それが目的である。
(これまでですね……。ごめんなさい、お父さん。お母さん。最期まで、憎きクンシィ・ワンクルに敵を討つどころか、オーク相手に、私を保護してくれた集落のみんなさえ守れそうにありません……)
アイビーは瞳を閉ざし、死を覚悟した。
目の前にいるのは、オークの王。
彼女が鎖に繋がれていなくても、倒すのは難しいだろう。
もはや、これまで。
と思った瞬間である。
「オークキング様! 大変です!」
オークの長がアイビーに近づき、今にも細身の彼女を掴んで食べようとしていた所に、2mくらいの小柄なオークが走って来た。
「なんだ、良いところに水を差しおって」
オークの長が不機嫌な顔をしてそれを迎える。
「突如、我らオーク軍の前に只人が現れ、現在交戦中となっております!」
「只人……兵力は?」
「1人とネコ1匹です!」
「何を焦ることがある。たかだか只人1人であろう。報告することでもあるまい」
「ネコも1匹います!」
「たかだか只人1人とネコ1匹であろう」
「その只人が、物凄い強さなのです! 鉄の棒とアーチ国の武器を持ち、既にオーク兵は50体以上の損害を受けております!」
「……は? ただの只人が……?」
「ネコもいます!」
「お前うるさい」
只人というのは、夢路のような普通の人間種である。
獣の特性を持った獣人や、魔法のエキスパートであるエルフ、巨体のオークなどなど、これといった特徴がない器用貧乏な種族が只人だ。
もちろん、只人と呼ばれるモノのなかにも強者は存在するが、オークの長にとって、『何の特徴もない只人1人が、50体以上のオークを打倒す』なんて光景は想像しがたいことだ。
けれど。
その只人の恐ろしさを、オークの長はすぐ思い知らされることとなった。
報告をしに来た目の前にいるオークの頭が弾けたのである。
「!?」
オークの長は、何が起こったのか全く理解できなかった。
何かの攻撃を受けた、と言うのは少し時間をおいて理解するが、それでもその攻撃がなんなのか、理解不能といった様子だ。
「ま、魔法……? 呪い……?」
咄嗟に思い浮かんだのは、魔法や呪いによる遠隔攻撃。
だが、結論を言うとそれは違う。
只人の夢路が、物凄い速さで通り過ぎ、鉄パイプでオークの頭を抉ったのだ。
ドンッ! と、着地音で地面を震わせ、その場に夢路は現れた。
「ケルちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! やべぇえええええええええええええ!! 見失ったァァァァァァァッァァァァァァァ!! どこ行ったのォォォォォッォォォォ!?!??!?!?!?!??!?!?!」
夢路はまるでFXで有り金ぜんぶ溶かした挙句に運転していた車が暴走してスカイツリーに突っ込んだくらい頭を抱えて絶望し叫んでいた。
アホである。
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