第2話 係長 VS オーク ①

 結論から言う。


 おそらく、おそらくだけれど……。


 異世界転生した。


 俺は異世界転生とか、ファンタジーな漫画やラノベはあんまり読んだことがない。高校生か大学生の頃に何かの漫画を読んだかもしれないが、ともかくとして、俺はそういう知識はほとんどない。


 けれど、俺は目の前の光景は、『これって異世界転生?』と思わせるのに十分な状況だった。


 というのも。


 目の前に大量のオークがいるからだ。


 多くのオーク。

 全員が2m以上の大きな体躯で、棍棒やら斧を装備し、何か裸で棘が付いたハーネスベルトみたいな服装をしている。

 あと肌が赤い。トマトみたいだ。


「何だぁ〜? こいつ」

「いきなり出てきたな」

只人ただびとみたいだな、何モンだ?」


 オークたちは品定めするような視線をこちらに向けている。

 いやらしい目つきだ。俺は咄嗟に女の子のケルを隠した。チンピラ紛いのカスがウチのケルちゃんに劣情を抱いていると思うと反吐が出る。


「あの、一つお伺いしたいんですけど、ここはどこでしょう?

 なんか異世界転生したみたいなんですけど……いや、ワンチャン長野に迷い込んだだけとかありません?」


 長野の山村だったら、まだオークが住んでいてもおかしくない。

 俺はそんな一縷の望みに賭けてみるか……。


「ナガノ〜? どこだそりゃ。ンガシノのことかぁ?」


「えっと、スマホ分かります?」


「なんだその小さいの」


「じゃあ、総理大臣は」


「何さっきから意味分かんないこと言ってんだ?」


 駄目だ。

 長野を知らないだけなら、限界集落と名高い青森や鳥取県民の可能性もあったが、スマホくらいは持っていなくても存在くらい知ってるはずだ。


「い、異世界転生じゃん……勘弁してくれ」


 俺は血の気が引いた。

 すぐにケルを実家に連れ返さないと、親父に殺される。ケルは実家のネコであり、俺の飼いネコではないのだ。


 勝手に外に出しただけでも問題なのに、その上、帰れなくなったのはかなりマズい。


 それに、明日の5時には朝礼があるからそれまでには戻らないといけない……。


「よく分かんねぇが、お前、身なりは結構良いな。それにそのペット、得れば結構高くなりそうじゃねぇか」


 中央にいるオークが、俺とケルを指差しながら、気色の悪い笑みを浮かべた。


「は? 土民の小汚ねぇ指でケルちゃんを指してんじゃねぇよ。ブチ殺すぞ」


 ブチッ。

 単細胞なオークの脳血管が切れた音がした。


「舐めんじゃねぇぞクソチビがッ!」


 そう言って、オークは巨大な棍棒を俺とケルに向かって振り下ろす。


 単純なヤツ。


 俺は余裕を持ってそれを躱して、懐に入れていたショットガンを片手で取り出し、オークの顔面に向けて発泡した。


 パァンッ!


 ショットガンの散弾をモロに顔面に喰らったオークは、その衝撃に耐えきれず倒れた。

 流石に、ショットガンを喰らって耐えられたらどうしようかと思ったが、そこは安心。

 ファンタジー世界の住人でも現代兵器は通用するようだ。


「見るからに社会的地位の低い身なりしてるくせに、正社員に楯突くからこうなるんだ」


 後ろに倒れて動かないオークの様子を見ながら、俺は侮蔑的に言った。


「コイツ、許さねぇ!」

「よくもやりやがったな!」


 そんな様子が気に入らなかったのか、それとも社会不適合者なりの仲間意識なのか、仲間が倒されたことにご立腹のようである。


 面倒くさいのでショットガンを2発、隣のオークにブッ放した。

 やっぱり普通に死んだ。良かった。


 と、安心したのも束の間である。


「ンニャァァ!」


 左手で抱えていたケルが、大きな音にビックリして暴れ出し、逃げ出してしまった。


「け、ケル!? ま、待て! 危ないぞ!」


 俺の静止など聞く耳持たず、ケルはオークの群れに走り去っていった。


 マズいマズいマズいマズい。


 いくらケルが抜群なセンスを持っていても、まだ1歳の子ネコが、オークの群れに向かっていくなんて正気じゃない。


「てめぇ! ただで済むと思うなよ!」

「グチャグチャになるまで殴り潰してやる!」

「お前らかかれー!」


 間の悪いことに、オークの軍勢が、俺に向かって来る。

 斧、棍棒、カギ爪などなど、様々な武装をしている野蛮な奴らが、一斉に向かってきた。

 

「黙っとれやゴミカスがッ!」


 俺は鉄パイプを取り出し、通り過ぎざまに2体のオークの首の骨を折った。

 鋼材屋なので、鉄パイプくらいなら常備してるが、やはりこういう時に便利だ。


「がッ!」

「グエッ……?」


 オークは図体がデカい割にはトロイ奴らだった。

 俺の動きさえ捉えきれず、オーク2体はその場に倒れた。


「ケル〜ッ! 危ないから戻ってこい! おいテメエら! 暴れるんじゃねぇ!! ケルちゃんが怪我するだろうが!!」


 血気盛んなオークの軍勢に叫び、休戦を求めるが、オークは聞く耳を持たないようで……。


「ふざけやがって!」

「こっちは200人いるんだ! 囲え囲え!」

「殺してミンチにしてやる!」


 これだから田舎者のヤクザ崩れには困ってしまう。

 ケンカをして勝っただの負けただの、クソ下らないことだと言うのに、仲間がやられたからメンツが立たねぇと言わんばかりに向かってきやがる。


 俺は大きな音が出るショットガンをしまい、向かってくるオークを鉄パイプで1人、2人、3人と蹴散らしていきながら、ケルを追った。



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