第16話 賢者の弟子に会いたくて


 まさかエリアの父親がエルフの王だとは思っていなかった。

 好戦的であるようだがこの世界の人間は強いほど親子の連帯が強いイメージが強いので家族のエリアにはよくするだろう。

 俺がこれ以上他所の家庭のことに関わってもしょうがないし自分のことをやるか。


「すいません」


 とりあえずぶっ飛ばされた時に壊してしまった壁のお詫びに行く。


「あ、あんたは……」


「壁を壊してしまったので弁償しにきました」


「そ、そんなことはどうでもいいから消えてくれ。王に刃向かった人間と関わったなんてバレたらスキルと名前を取り上げられちまう」


 スキルと名前を取り上げられる。

 俺と戦った時は使わなかったようだが随分と強力なスキルを持っていたようだ。

 この世界でスキルを取り上げられるのは死に直結しかねないからクロードの機嫌を損ねることは極力避けたいはずだし、こう言われてもしょうがないか。


「そうですか。では、これだけ渡して失礼させて頂きます」


 大金貨を渡すとその場から離れる。

 この世界に来てからは基本的に野宿か宿屋が多いので、家の壁の修繕費がどれほどのものかわからないが流石に武器屋の一番高い武器を買ってもお釣りが来るほどなので大丈夫だろう。

 この村からは戦いの様子がモロに見えてた可能性が高いから賢者の弟子──ティアーナのことを聞き込むのは二つくらい離れた村でするか。


 村を目指して黙々と歩いていく。

 異様に静かに感じる。

 エリアがいないせいだろう。

 旅中でも史跡について教えてくれたり、見たことのない花だの、鳥だのと話しかけてくれていたからな。

 どこか何かが足りないような気分になってくるがしょうがない。

 あるべき場所に帰ってしまったんだから。

 前の世界でもこの世界でも必ず訪れることだ。

 目的を果たした後か、その前かがわからなかっただけで必ず。

 そんなことを考えて歩いていると二つ離れた村に着いた。

 気づけばもう夕方だ。


「宿屋でついでに聞くか」


 近くで見つけた宿屋で夕飯がてら聞こうと思い中に入るとエルフしかおらずジロジロと見てくる。

 人族や魔族領には割と多種多様な種族がいた分異様な光景に感じる。

 関所で他種族を捕まえていいようにしていたし、ここにエルフしかいない理由としてはそんなところだろうか。


「すいません、何か食べるものと飲み物を貰えますか?」


「パンとシチュー、エールでいいかい?」


「はい。お願いします」


 メニュー知らないのでそう頼むと恰幅のいいエルフが快く応対してくれる。

 大概はこう聞くと金を要求してから無言で料理を出してくるので愛想がいい。

 ついでにこのエルフの亭主にティアーナのことについて聞くか。


「つかぬことをお伺いするんですが賢者の弟子ティアーナがどこにいるか知ってらしゃいますか?」


「賢者の弟子か……。確か聞いた話だと王の怒りを買ってスキルと名前を没収されて放逐されたとか監獄に幽閉されてるとか聞いたことはあるが詳しいことはオレも知らないな。少なくともここらにはいないと思うよ」


「そうですか。貴重な情報を恵んで頂きありがとうございます」


 噂によると生存する手段を奪われて放逐されてどこかで生きているか、王御用達の監獄に幽閉されてるってところか。

 前者は生きている可能性が低いし、場所の目星がつかないことを考えると後者の監獄を探すのが現実的か。


   ───


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