第14話 悪質なオヤジ狩りに会うクズパパ



「消えるがいい」


 白髪エルフは現れた同時に魔法──風の爆発を放って吹き飛ばしてきた。

 咄嗟に「武器量産」で作成した盾を間に挟んで難を逃れたが、俺と同ステータスの盾が壊れているところを見ると当たったら最悪死んでいたかもしれない。

 強いな。

 強さと直前にエリアが言っていた内容から考えると例の六大覇王の魔導王クロードとかいう奴か。

 理由は全くわからないが、出会い頭で抹殺してきたことを考えると殺意があると思っていいだろう。

 あまり人を傷つけたくはないが、実力も俺以上殺意もある、エリアの安全を確保しなければならないとなればもう殺す以外の選択肢は取れない。

 ぶっ飛ばされて壁を破壊してしまった時にできた周りの瓦礫をどかして外に出ると、とりあえず追撃を避けるために牽制の一撃を放つことにする。

「武器量産」で大弓と剣二本を作成すると、弓スキル「ホーミングアロー」──弓から打ち出したものに追尾を付与するスキルを使って大弓から剣を連続で放つ。


 ────


「フ! 塵も残さず消え失せたか。哀れな奴だ」


 森人エルフ族領に居るエルフは世界樹によって全てを管理されており、それを統べるエルフの王クロードは世界樹から始末したと思っていたカススキルしか持たない出来損ないの娘──エリアの存在を検知して確実に消すために自分自身で殺しにきた。

 久方に自ら動くこともあって勢い余ってエリアと共にいた邪魔な人族を600年前に魔王を殺したスキルを放ってクロードは始末してしまい、圧倒的な力によって蹂躙される弱者の散り様があまりにも不様で堪らず吹き出す。

 間抜けなことにクロードは600年前に魔王を倒した時に湖を作ってしまった時のような地形変化が起こっていないという前回との明確な差異に気づいてらず、魔法が盾によって防がれ、威力を完全に殺され、松吉を傷つけることさえできてないないとはつゆほども想像しなかった。


「さて人生の汚点を消すか。……顔を見るだけで不快な娘だ。賢者の弟子だということで私の子を産むという名誉を与えてやったのに不遜な態度をとった母親によく似ている。出来損ないの醜聞の元よ消えろ」


 突然のことに動揺し動けなくなったエリアに向けて魔法を放とうとクロードが手をかざす。


「グアアアアアア!」


 魔法が放たれるかと思うとクロードは背中から松吉の剣で貫かれて絶叫を上げた。


「俺を殺そうとされているようなので殺しに来ました」


 腹から剣の刃が出ていると思うと傷が拡張される激痛とともに刃が松吉に変わっており、1000年以上の長い人生で遭遇したことのない凶行にクロードは怖ける。

 スキル「本体召喚」を任意で発動させて、剣の代わりにクロードの腹を貫通する形で自らを召喚した松吉は二射目の剣を掴むと頭の先から傷にかけてクロードを真っ二つにしてクロードの体から脱出する。


「ああああああ!!」


 ステータスが高いせいで真っ二つにされても即死しなかったクロードは絶叫と共に半身で悶えるとスキル「ストックマジック」──事前に込めておけば指定した魔法を指定したタイミングで発動するスキルが発動し、体が再生してなんとかことなきを得る。


 エルフの王を援助する世界樹から遠く万全でないとはいえ、殺されかけた事実にクロードが恐慌に陥る。

 ビビりきったクロードが距離をとって転移で逃げようとすると松吉が間髪入れずに「絶剣」を放って細切れまでクロードを切断して殺害する。

「ストックマジック」が発動して、クロードが蘇生すると目の前に松吉の顔があった。

 これだけ容赦のないことしておきながら眉一つ動いていない全くの無表情。


「逃げようとしたら殺す。攻撃しようとしても殺す。戦って死ぬか、自害して死ぬか選べ」


「ああああああああ!!」


 逃げることを封じるために松吉が脅しをかけると怯えきったクロードが錯乱して先ほど松吉を吹っ飛ばした風魔法スキル『ゴッドノーズ』を発動させる。

 だが確実に松吉の体に直撃したはずなのに「ゴッドノーズ」はなんのダメージを生むことなく散って消える。


「体の構成物質を破魔鉱石マジックキャンセラーに作り変えた。魔法は効かない」


 クロードは絶望した。

 世界樹の援助で全エルフのスキルが使用可能とはいえ、魔法以外のスキルで松吉に効くスキルは存在しない。

 援助などではなく世界樹の力そのものを使える世界樹の麓であれば、まだ可能性があるというよりも倒せるまであるが転移をしようとしたら殺されるので不可能。

 このままでは死ぬしかない。

 命の危機に瀕し必死に頭を動かすとエリアを利用したあることをクロードは思いついた。

 エリアにエリアと親しいだろう松吉を止めさせるのだ。

 繋がっている世界樹のパス経由でエリアにクロードの強大な力のイメージを送り、自分の言うことを聞かなければ松吉が死ぬと言うメッセージを送る。

 エリアの方を見ると刻々と頷いている。


「私はこの娘の父だ! 貴様はこの娘から父を奪おうと言うのか?」


「お前が父?」


「お父さんを取らないで松吉」


 松吉はクロードの言葉は信じられなかったがエリアの言葉は信じた。

 そう言うエリアの表情が今まで見たどんな顔より切実だったのだ。

 本当に傷つけて欲しくないと思ってなければこんな顔はできないだろうと松吉は判断した。

 それに思い返せば父親が娘を取り戻すために襲撃したと思えば、全ての辻褄が合うのだ。


「私を見逃して、娘を渡せ。この娘はまだ八つ。親との生活が必要なのだ」


「八つ?」


 娘のためを思って戦う親を全力で殺そうとしていたことに松吉が罪悪感を覚えると衝撃の事実に松吉の中で激震が走る。

 二十歳ではなく八歳。

 申告は嘘だったのだ。

 幼児であれば自分についていくよりも確実に裕福な親のもとで教育を受けた方がいい。

 と言うよりも未成年略取は犯罪である。


「嘘をついていたんですねエリアさん。連れ帰ってあげてください」


「話がわかればいい。行くぞ」


 松吉が頼むとクロードはエリアを連れて転移した。


   ───


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