第12話 悪徳関所で草
「ここは喜びの湖──エルフの王が600年前に魔王を打ち滅ぼした時にできた湖。そのエルフの王クロード様は魔導王って言われる六大覇王の一人で今でも現役で王様をやってるんだって」
「へえ」
故郷の町ドンピシャなら俺も説明できるが、エリアの居た村からかなり外れの位置にあるここまで説明できるとは凄まじい。
スマホでパパッと地理の把握ができない分、できるだけ遠くにあるものも覚える必要があるからってところだろうか。
「やっていることから言ってそのエルフの王様かなりの傑物なんですね。すいません、寡聞にして知らないのですが六大覇王とはどういうものなんですか?」
「六大覇王は各族領の中で一番強い人のこと。人族は弱すぎるから基本はいないけど、魔王を倒した異界の勇者がたまに入ることはあるよ」
「ほう、倒された魔王が除外されて新しく勇者が入るということは六大覇王の誰かを倒せば「我こそが六大覇王」と名乗ることが許されるんですね」
「うん。でも六大覇王の中でも魔王が一番弱いから。基本的に魔王以外の覇王がなり変われることはないかな」
魔王はかなり強かった印象だったがあれより強いのがあと五人いるらしい。
魔王より強いなら別に異界の勇者じゃなくてその五人が魔王を討伐すればよかったんじゃね感が半端ない。
異世界に拉致まで敢行しておいて良い加減にしてほしい。
「それ異界の勇者より他の六大覇王の方が魔王と戦えばよかったんじゃないですか?」
「『強き者が弱き者の元に向かう道理はない』ってことで動かないから無理っていうことらしいよ」
「なるほど。その馬鹿共のプライドの問題で俺はこの世界に召喚されたということですか」
クソみたいな連中だ。
なんだ弱い奴のために強い俺らが足を動かすのは嫌って。
こいつらの頭が正常であれば何もこの世界には問題は起きなかったのに。
本当にしょうもない。
六大覇王、全員下痢になって十年ぐらい苦しめば良いのに。
「あ、関所!」
俺が内心で六大覇王に負の感情を抱いているとエリアが声を上げた。
マップ──アイテムボックスと共に異世界召喚された時にあった初期装備の世界地図を見るとまだ人族領のはずだが。
まあさっきの話からすると人族は他の種族より弱いので、軽んじられて人属領内に作らされたということだろうか。
「門を開ける前にエルフ以外は鑑定を受けてもらうになっていてな、人間」
エルフの守衛がそういうと掛けているモノクルを弄りニヤリと笑った。
「ほう神官か。聖職者の最上級職とはな。攻性スキルはもっとやらんようだし、馬鹿なことはしなさそうだ。通してやろう」
「通行税は?」
「いらん。隣国のよしみだ。さあ通れ」
エルフは薄ら笑いを浮かべ門を開けた。
セキュリティのためか、門は二重になっており、開かれた門の先にもう一つ門が設けられている。
通り終わり前門が閉じられると後門に立っている守衛がニヤニヤと笑いながら門を開いた。
「少し前に立たせてもらいますね」
「?」
ワクワクしたような顔をして待つエリアの前に立つと血みどろの人族の子供が飛んできた。
ボール変わりに何度も蹴られたのか、全身が腫れており、胴体が歪んでいる
弱々しい呼吸を繰り返してギリギリ生きているようなので、回復させる。
「メガネさん、お願いします」
門の時の守衛がこの世界にいる典型的な人間の反応だったのでだろうなと思っていたが酷いな。
近くには憂さ晴らしにエルフ達に殴られているガリガリの男達と虚な目をして壁際に座らせられている女達が見える。
入り口周辺のここは入ってきた無害な人族をエルフ達がいいように使うところらしい。
「だあ邪魔するんじゃねえよ! 下等種族が!」
「おいそいつは使えるらしいから程々に」
「お、そうかよ。じゃあしょうがねえな。玉潰すだけにしてやるか」
「あのすいません──」
「何許可なくしゃべてんだテメエ!! やっぱ殺す! 股裂けて死ねや!!」
股を蹴ればそっちが怪我をするので忠告しようとすると激昂したエルフはスキルを使って足を光輝かせると俺の股間を蹴る。
「ああああああ!! 俺の足が!!」
俺の危惧した通りスキルで加速したエルフの足はひしゃげて潰れた。
「ああ……」
圧倒的なステータス差があると理解したようで、守衛が戦意を失って後退る。
家から出たばかりであまりこういう人の薄汚い部分を見てなかっただろうエリアは絶句している。
「目に毒ですし、「威圧」を使って散らせるので離れた方がいいですよ」
「いい。このままで。松吉だけにここに残すのは可哀想」
精神的な負担が馬鹿にならないのでそう提案するとエリアはそう言ってその場に残った。
新鮮だな。
この世界に来てから厄介ごとが起こるごとに周りから人が居なくなったから傍に人がいるのは。
まあ「威圧」が入れた時に周りの人間と一緒に消えると思うが。
「ありがとうございます」
「お! 新入りの人族じゃねか! 全員で教育してやるか! うーん? 見ない顔だが人族連れてくるためにスラムで雇ってきた廃棄民のガキかこいつ? カススキルばっかで使えねえと思ってたが使える奴もじゃねえか! あとで褒美に家畜の餌やるからな!」
守衛たちと同じように制服を着たエルフの男たちが嘲るような笑いを浮かべながらこちらに近づいてくる。
定型的な弱者を蹂躙するカスだ。
見ていて不快にしかならない。
「失せろ」
「「「ヒ、ヒィ!」」」
「ッ!」
「威圧」を込めて命令するとエルフの男達は足をもつれさせて転けながら逃げていく。
一緒に同じ方向にエリアが逃げないか、心配していたが予想に反して俺の服の裾を掴みながら耐えていた。
「威圧」にかかっても耐えられる人間なんて居るとは思わなかった。
可能にするにはすごい精神力だというのによくやる。
自分の苦しみより他人の幸せを優先する善人なのだろう。
言っても聞くようなタイプでもなさそうだし次から「威圧」は控えるか。
「誰かこの人達の知り合いに託さないとこの人たちは帰れないな」
人を捌けさせるためにメガネにこの場にいる人間をまとめて回復させると壁際にもたれかかる虚な目の女達の元に向かうが「威圧」を食らってもなお相変わらず反応がなかった。
この世界の女が単独で行動する確率は低いので男の方の誰かと来ているはずなんだが。
「「「ヒィ!!!」」」
「威圧」を掛けた影響で門前まで逃げていた男達が近づいていく俺から必死に逃げようとする。
散々被虐された後に恐慌状態なのでまともに話せるか怪しい。
それでも話さなければどうにもならないので近づいていくと一人の男が震えながらこちらに来た。
「な、なんかあんたと一緒にいるその子見てたら段々とエルフ突詰めて回復させまでしてくれたあんたのこと怖え奴だって思ってるのがどうもおかしい気がしてよ。あ、あんた俺たちを手を出そうってわけじゃないんだよな?」
男はエリアを見て「威圧」から解放されたと言ってきた。
エリアが「威圧」に耐えたというエラーが周りに伝播したとでも言うのか。
「ええ、あなた達に危害を加える気はありません」
「そ、そうか。あんたのおかげで助かったよ。ありがとう」
害意がないことを伝えると男は涙ぐみながら感謝を述べてきた。
「威圧」を使って感謝される日が来るとは思っていなかった。
「お、俺も助かったよ」「ありがとう」「もう少しで死ぬかと思ったがあんたのおかげで助かったよ」「あんたは俺らの英雄だ」
少し調子が狂うなと思っていると門の方に逃げていた男たちがこちらにきて、感謝の言葉を言ってきた。
夢なんじゃないかと思えてきた。
人を傷つけたくないというエゴのために「威圧」を使ったというのに感謝までされるなどあまりにも俺に都合が良すぎる。
「よかったね。皆わかってくれたよ」
すぐに白くなった顔で微笑むエリアの顔を見て夢じゃないとわかった。
都合のいいことなどなく、こうして俺が真っ当に人間とした扱いを受ける変わりに俺のために何かしようとした人が傷つく。
得るものに反して代償が大きすぎるな。
「ありがとうございます。エリアさん。次から俺ちゃんとしますね。被害者の皆さんは気にしないでください。俺も騙されてここに入ったようなものですから。それよりもあそこにいる方達に手を貸してもらえませんか?」
「ああ、すまねえ。連れだったんだがビビって……。いや余計なこと言ったな。連れてくる」
「俺は全員乗れる荷馬車持ってくる」
指示を飛ばすと男たちは各々動いて全員で脱出する手筈を整え始めた。
「あんたが助けてくれたのね、ありがとう」
外に出てる虚な女達が全てだと思っていたが中にも閉じ込められてたようで顔を腫らした女達が出てきた。
メガネで回復をかけると感謝の言葉を送ってくると男達に混じって虚な女達と荷を載せ始めた。
そろそろ出発できそうな感じだったので、手刀を振るって剣スキルの「衝撃波」で二つの門を吹き飛ばす。
「あんた達は乗らないのか?」
「ええ、
「そ、そうか。達者でな」
障害物も消え、脱出の準備が整うと被害者達は一声こちらに掛けて去っていた。
「大丈夫ですか? エリアさん」
「うん。大丈夫」
口ではそう言っているが顔色は悪い。
バッカスに育ってられて善人だということがわかっていたがかなりものらしい。
「貰っていけるものもあるかもしれないですし、少し休憩してから行きましょう」
ただ自分の嫌なものを遠ざけたい俺と誰かのために自分を犠牲にするエリアでは価値に差があり過ぎる。
できるだけエリアに危害を加えないように動くか。
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