第10話 私二十歳なんですけど!
「あんなに気立ての良い若者になんてことをしたんじゃ儂は。いきなり別の世界から連れてこられて心細いとわかっているのに」
「おじいちゃん……」
バッカスが罪悪感に駆られ呻くとエリアが心配そうに声を掛ける。
「儂が怯え、孤独になりたくないだけだというのに自分可愛さに『孫を危険に晒したくない』などと卑怯な言い訳をして本当に情けない。お主のことを思えば儂などより松吉の元に居るのが一番良いとわかっているはずだというのに」
孫の声も聞こえないほどに悔恨の念が強まっていく。
それというのも松吉の孤独を癒せるのはエリアだけだという確信してしまったからだ。
エリアはバッカスと同じく「威圧」を浴びせられたのにも関わらず、松吉に手を伸ばして寄り添おうとしたのだ。
バッカスは怯え、平伏し、拒絶することしかできなかったというのに。
エリアは恐怖を抱くものであっても受け入れて寄り添える力。
松吉には何人からも自他を守り抜く力。
エリアと松吉は引き裂いてはいけなかったのだ。
エリアを老い先短く惰弱な自分の元に置いておくのは、危険に晒すだけでしかなく老いぼれのエゴでしかない。
「エリア、松吉の元に行きなさい。まだ間に合うかもしれん」
「おじいちゃん? おじいちゃん一人になっちゃうよ」
「大概のジジイは一人のもんじゃ。気にするな」
「でも……」
「なに儂は死ぬまでここにおるつもりじゃ。ここにくればいつでも会えるわい。松吉とはここで別れたら二度と会えん。お主もこれで松吉とお別れするのは嫌じゃろう。行って来なさい」
促すとバッカスのことを何度も確認しつつエリアは道を歩いていった。
その先で震えるチンピラを連れて森の中に入っていく松吉の姿が見えた。
律儀な若者なのでここいらのチンピラを一掃しているのだろうと悟り、バッカスは眩しそうなものを見るように目を細めた。
「本当にいい男じゃのう」
──
松吉が森に入っていくところを見たエリアが追いかけていくと爆音と共に土煙が宙に舞うのが見えた。
近づいていくと瓦礫の山とその上に座り込む松吉の姿を発見した。
いつも毅然とした態度でいる松吉の背中はエリアには殊更大きく感じられていたが、夕日の中で一人座り込むその背中はどこ寂しげで小さく見えた。
松吉を見ると震えていたはずの体の震えが止まって、元気付けなくてはいけないという気持ちが湧いてきた。
「よしよし」
エリアが近づいて頭を撫でると松吉が身じろぎした。
「エリアさんですか。ありがとうございます。嬉しいですが弱っている時に優しくされると涙腺が崩壊するんです。やめてください」
「よしよし」
「もうすぐで号泣します。ごめんなさい。止めますね」
松吉が眦に涙を浮かべ、鼻を鳴らすとエリアの手を掴んで止める。
「どうしてここに来たんですか? 俺と一緒に居ても怖い思いをするだけですよ」
「怖くてもいい。松吉とこんな別れ方したくないし、松吉はさっき寂しそうにしてたもん。おじいちゃんも行ったほうがいいっていてたし」
「バッカスさんがですか」
エリアは本心から言っていたが、松吉はバッカスに促されて来たんだろうと読んだ。
バッカスは人に気を効かせる老人なので、自分に気を利かせてこれくらいのことはするかも知れないと思ったからだ。
「バッカスさんに言われて来たんですか。エリアさんは子供だから自分では判断ができないませんもんね。俺はあるべき場所に帰るべきだと思います」
「子供じゃないんですけど! エリア二十歳なんですけど!!」
ついていくときっぱり意思表示したのに子供だからという理由で全否定されたエリアはなんだか馬鹿にされた気分になって実年齢は八歳だったが二十歳だと年齢を詐称した。
この世界に住んでいる人間ならば秒で見抜ける嘘だったが、松吉はエルフの生態には疎く、「めちゃくちゃ長寿ぽいし、二十歳でも幼女の見た目なのかも知れない」と思ってしまった。
「二十歳……。今まで色々とすいません。これからよろしくお願いします」
同い年なのに露骨に子供扱いしてしまったことに罪悪感を抱くと松吉は平謝りして、同行を許可した。
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