第4話 逆恨みする国王
「許さん! 許さんぞ! 地牛松吉のメガネ!! 儂にあのような辱めを!!」
ミーム王国第十三代国王シット・ミームは謁見の際に松吉にビビらされて失禁し、情け無く赦しを乞わされたことに激怒していた。
あれだけの怒りを買ったというのに一ミリも反省の色もなく、この国の頂点たる自分に恥をかかせた松吉に対して憤る我儘な中年の姿がそこにはあった。
ビビらされることになった原因が自分の不義にあり、殺されてもしょうがないことをしたことに気づいてさえいない。
愚王。
その言葉をシットは今体現していた。
「今すぐに異界の勇者──土岐陽気と通信する準備せよ!」
「は!」
シットが怒鳴り声を上げると近衛騎士たちが通路に移動し、通信用の魔導具──大水晶を持ってきて魔力を注ぎ始めた。
『王様、いきなり何の様? 今オレ忙しいんだけど』
声が聞こえると思うと上半身裸の金髪の青年──土岐陽気の姿と毛布に包まっている女の姿が水晶に浮かび上がる。
「何の様もこうもないわ! お主と同じ世界から来た地牛松吉のメガネが魔王に与して王国を滅ぼそうとしておる! 同郷の者の粗相は貴様が何とかせんか!」
シットは八つ当たりをするように陽気に怒声を飛ばすと陽気が嫌悪の表情を浮かべる。
「え、オレすか。ま、滅ぼすってことだし行きますけど……。つーかあいつマジないわ〜。雑魚で足も引っ張るとか最悪すぎでしょ〜。あいつド隠キャて感じで見た時からなんか嫌いだったし秒で狩りますわ〜」
「早く戻って息の根を止めるのだぞ! 奴は王都周辺におる!」
「へいへ〜い」
「通信は以上だ!」
シットが怒声を飛ばして指示をすると魔力の供給が止まり、水晶が切られる。
能力の高さは折り紙付きだが、陽気の軽薄な態度がどうにも勘に障り、イラついていると第一王子のクラップがシットの前に姿が現れた。
「何だ! 今は忙しい後にせよ!」
「パパァ!! 地牛松吉のメガネとかいう奴が僕に手を挙げて、奴隷を盗んでたんだ!」
「何ぃ!?」
息子を軽くあしらおうと思うと地牛松吉のメガネという名前を聞いてシットが目を剥き、顔を真っ赤にする。
冷静に考えれば第一王子のクラップがシットと同じ最上位鑑定スキル『王の目』を持つことなど松吉が知るわけもないので、挑発ではないとわかるはずだが、そんなことに考えを及ぼさず、シットは怒りを爆発させる。
「ゴミ風情が儂をコケにして調子に乗りおって! 討伐隊を派遣せよ! 見つけ次第殺せ!」
送ったところで超常の力を持つ異界の勇者でもない騎士たちでは「威圧」で無力化される以上しょうがないのだが、命令の上だけでも松吉を害さないと気が済まずシットはそう叫ぶ。
叫んだ後から荒ぶる松吉の姿を思い出して、肝が冷え始めたが、プライドから撤回できず、近くの近衛騎士を呼び、松吉から命令されたからではなく、いざとなった時に強制送還できるように異界転移の研究を急いで開始させるように催促した。
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