第四話 「この街から出てってもらおうか…!」

 「あのコンビニの路地裏か…」



 澪の目にコンビニエンスストアが映る。周囲には商店が立ち並ぶ。


 澪はコンビニエンスストアの前に着くと、立ち止まる。そして、コンビニエンスストア脇の路地へ視線を向ける。



 「あの路地を通って、コンビニの裏へ…。そこで…」



 何かが起こっている。



 「何が起こってるのかは分からないけど、この街を荒らそうもんなら…!」



 この街を誰よりも愛する澪。それは、彼女と関わりのある人物は皆、知っている。





 「私を育ててくれた街。お世話になっている街。愛情に溢れている街。だからこそ…!」



 右手に握り拳を作った澪は小さく頷くと、コンビニエンスストアの路地へと歩を進めた。



 路地の通路は細く、薄暗い。左手にはコンビニエンスストアの外壁。右手には青果店の外壁。


 すると、一匹のキジトラの野良猫が澪の向かいから歩いてきた。



 「あ、ごめんね…」



 澪は壁に背を向け、野良猫を通す。野良猫はお礼を伝えるように澪へ視線を向けると鳴き声を上げ、路地を進んでいった。


 野良猫の後姿を見届けた澪は再び歩を進める。


 その数秒後。



 「おい、おせーぞ。何やってんだ」



 男の荒げた声が澪の耳に届く。



 「何…?」



 澪はその場で立ち止まり、男の声に耳を澄ませる。



 「バケモノみてぇにつえー女?髪のみじけぇ女?」



 澪は表情を変えない。


 すると、次の瞬間。男の怒声が路地に響く。



 「何してやがんだ!四人でたった一人相手に!そいつはどこ行った!?何?お前らが先に立ち去った?」



 それからすぐ、再び男の怒声が。


 澪は男の怒声を耳にしながら呟く。



 「四人…」



 その四人は。



 「組織以外の人間があの紙を見ても場所は分からねえだろ。まあいい。そいつの特徴を詳しく教えろ」



 男は路地の奥へ進む。


 澪は壁に背をつけ、男の背中へ視線を向ける。



 「恐らく、組織内で情報を共有する…。そして、私を探す…。きっと現れるだろうね、私の前に…」



 男の姿が見えなくなると、澪は視線を上空へ。



 「このままの姿でいけば、確実にそういった状況になる。そして、周りのみんなを巻き込む可能性がある。それは絶対に避けたい。みんなを危険な目に遭わせたくはない」



 その言葉からすぐ、澪の頭の中に街の人々の姿が映し出される。笑顔で澪に接する街の人々。彼らは澪にとってかけがえのない存在だ。




 「これまでは一人や小さくグループを相手にしてきたけど、今回は大きな組織。しかも、傘下を持つ。そう簡単には壊滅させることはできない。でも、壊滅させなければ、この街はどんどん…」



 腕を組む澪。



 「まずは、傘下の中核を倒す。みんなを巻き込まない方法で…」



 そして、目を閉じる。



 あの方法か、この方法か。あらゆる方法を模索する澪。


 すると、猫の鳴き声が。澪は目を開け、視線を猫へ。路地裏を抜けたキジトラではなく、首輪をつけた茶白の猫だった。


 澪の表情はやさしくなる。しゃがみ込むと、茶白の猫は右前足を澪が履いている靴へ乗せる。



 「お散歩?」



 澪が問うと、茶白の猫は「うん」と答えるように「ニャア」鳴く。


 茶白の猫はコンビニエンスストアの隣で営業する青果店の店主の飼い猫。店主が店先に立っている間、この茶白の猫は近所を散歩するなどして過ごしている。


 

 「ニャア」



 茶白の猫は「遊ぼう」と言うように澪を見つめ、鳴く。


 澪は申し訳なさそうな表情を浮かべ、こう応える。


 

 「今日は遊べないの…。ごめんね…」



 茶白の猫の頭を撫でる澪。茶白の猫は「どうして?」と応えるように澪を見つめる。



 それからすぐ、澪の携帯電話に一通のメールが入る。


 ジーンズの右ポケットから携帯電話を取り出し、メール画面を開く。


 送り主は勇吾。


 メールを開封すると、澪の表情が一気に変わる。

 


 -奴らが澪ちゃんを探しているという情報だ。きっと、倒された四人の敵討ちだろう。傘下の中核の一人があっという間に情報を組織内へ流し、共有。恐らく、そんな感じだろう。一人では手に負えないかもしれない。フォローの体制は整えている。あとは、澪ちゃんがどう出るかだ。澪ちゃんの出方次第で、どう動かすかが変わってくる。とりあえず、今の段階で頭の中にある出方を教えてくれ。-



 画面を見つめ、澪は呟く。



 「こっちから仕掛けたい。でも、やり方によってはみんなを巻き込む恐れがある。この仔も…」



 そして、視線を茶白の猫へ。


 「それ何?」と尋ねるように、じっと澪を見つめる茶白の猫。


 澪は再びやさしい表情を浮かべ、こう答える。



 「ちょっと、用事ができちゃった。でも、すぐに戻るから。何も心配いらないからね」



 茶白の猫の頭を撫でた澪はゆっくりと立ち上がり、静かに息をつく。



 「こっちから仕掛ける…。そして、みんなを巻き込まないように…。だったら…!」



 その言葉からすぐ、茶白の猫は「待ってるね」と言うように鳴くと、路地を抜ける。


 澪は茶白の猫の言葉が伝わったかのように微笑みながら「うん」と応えると、右手に持った携帯電話で文字を打ち込み始めた。

 

 

 「ベタかな…。この方法…」



 苦笑いに近い表情を浮かべ、勇吾へメールを送信すると、澪は路地を抜ける。


 あの男の姿はない。


 澪は小さく頷くと、ある建物へ視線を向ける。


 そこは。



 「色々あるし」


 

 複合商業施設だった。



 澪は口元を緩めると、右手に握り拳を作る。そして、アジトのある方角の空へ視線を向ける。



 「この街から出てってもらおうか…!」


 

 それからすぐ、澪の言葉を届けるかのように、一羽の鳥がアジトのある方角へと羽ばたいていった。

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