第三話 下っ端の四人
「いかにもな場所だな」
アジトの敷地内を出てから十五分後、澪は薄暗い空間を目の前にそう呟く。
錆び切ったドラム缶、落書きされた壁。そして、ガラクタの山。
周囲を見渡し、人気の気配を探る澪
「誰もいないな。ここに現れるらしいけど…」
唸るように息をつき、ガラクタの山を見つめる。
すると次の瞬間、足音が澪の耳に届く。一人ではない。
「三人以上…」
澪は物陰に身を潜める。すると、一人の人物の姿が。
澪の眼光が鋭くなる。
「オラ、来い!」
一人の男が怒声を上げる。
それからすぐ、彼に引っ張られるように一人の少年が姿を現す。
「何する気だ…?」
澪はそう呟くと、右手に握り拳を作る。
それからすぐ、三人の男が姿を現す。そして、四人は少年を取り囲むように立つ。
それを見て、澪は察した。
「そういうことか…」
澪の言葉からすぐ、少年へ怒声を上げた男が右手を振り上げる。
それを見た澪は駆け出す。
「何だ、この女!」
右手を振り上げた男が大きな声を出す。
澪は男が振り上げた右手を掴むと、そのまま投げ飛ばす。そして、残りの男三人へ視線を向ける。
鬼の形相。
いや。
「おい、こいつやべーぞ…。バケモンだ…!」
一人の男が言葉を発すると同時に、再び澪は駆け出し、右手に握り拳を作る。
その拳は真っすぐの軌道を描く。
「おわ!」
男は仰向けに。
澪は止まらない。
そこから数十秒後。
「フン…」
澪の目に映るのは仰向けの状態になった男四人の姿。そして、どこか怯えた様子で澪へ視線を向ける少年の姿。
澪はゆっくりと少年の元へ歩を進める。徐々に澪の表情はやさしくなる。
すると、少年の表情に変化が。
「あ、ありがとうございます…。おねえさん…」
怯えの中に笑顔が伴った表情で澪にお礼を伝える少年。澪は口元を緩め、首を横へ数回振る。
「礼には及ばないよ。それよりも、どうしてこいつらに」
澪が問うと、少年は何か嫌なことを思い出したかのように一度顔を俯ける。
「話せる範囲でいいよ」
澪がやさしく言葉を掛けると、少年は顔を上げる。そして、仰向けになった男四人へ視線を向けながら話し始める。
「実はさっき、この人達に『金貸せ』って言われて。僕が『持ってません』って言ったら怒って、それで…」
「そうだったんだ…。怪我はない?」
「はい…!」
「おお…。よかった…!」
安堵の表情を浮かべた澪は男四人へ視線を向ける。すると、少年の腕を引っ張っていた男のジーンズの左ポケットに白い紙が入っていることに気付く。
「何だ…」
澪はその男の元へ。
すると、男は右手に握り拳を作り、睨みつけるように澪へ視線を向ける。
「まだやるか…?」
鬼の形相で言葉を吐き捨てる澪。
男は怖気づいたように、握り拳を解く。
「おい、何だこれは」
しゃがみ込んだ澪が白い紙を見つめ、男に問う。
「さあな…。お前が見ても何も得るものはないぜ…」
男はなんとか振り絞ったような声でそう答えた。
澪は男へ視線を向ける。
すると、何かを察したように再び視線を白い紙へ。
「もしかして、お前ら…」
核心を突いた澪の言葉に男は何かを諦めたように目を閉じ、小さく頷く。
「ああ…。そうだよ…」
「やっぱり…」と声に出せず、口を動かす澪。
「その下っ端だよ、俺ら…」
男はそう続け、左手を白い紙へ伸ばす。そして目を開け、澪へゆっくりと白い紙を突き出す。
「もう一度言う…。お前が見ても何も得るものはないぜ…」
澪は三つ折りの白い紙を受け取る。男はゆっくりと起き上がると、仲間に起き上がるよう促す。そして、その場を去った。
四人の姿が見えなくなり、澪は三つ折りの紙を開く。
「どこだ…。これ…」
白い用紙には一言。
-B地点に向かえ。-
そう記されているだけだった。
「上からの指示を記した紙をバイクの男が配る。その紙に記された指示に従う。それがあの組織の指示の出し方だ」
澪は組織のアジトへ向かう前、勇吾からそう聞かされていた。
白い紙を見て、何かを察したのはそれが理由だった。
少年を最寄り駅まで送り届けた澪はそこから少し離れた小さな公園に入り、ベンチへ腰掛けると、再び三つ折りの白い紙を開く。
「B地点…。それだけじゃ、どこか分からない…」
白い紙を膝の上に置き、腕を組む澪。
すると、携帯電話に着信が入った。
勇吾からだった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。どんな感じだい?」
勇吾からの問いに、この現状を話す澪。
「『B地点』か…」
「どこか分かりますか…?」
「ちょっと待っててくれ」
澪の右耳には電話口の向こうで勇吾が用紙を捲る音が届く。
しばらくし、勇吾の声が。
「待たせたね。今、ちょっと調べたら、あることが分かった」
「あること?」
「ああ。奴らはね、この街の三地点で何かを起こしている。それぞれをA、B、Cとし、その三地点を線で結ぶと、正三角形になる。その正三角形の中心が奴らのアジト。B地点はアジトの南西の位置。そこは…」
勇吾はB地点の場所を伝える。
そこは。
「コンビニの路地裏」
勇吾の声を聞き、澪は口元を緩め、白い紙を三つ折りにし、左手に握り締める。そしてお礼を伝え、腰を上げると、再び勇吾の声が。
ただ一言。
「気を付けて」
澪は「はい」と凛々しい声で応える。
それからすぐ、通話が終了。澪はジーンズの右ポケットに携帯電話を入れると、視線をB地点の方角へ。
「さあ、行くか…!」
気合いを入れるように前髪をかき上げ、澪はB地点へとゆっくりと歩を進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます