第二話 鬼神
翌日、朝十時過ぎ。澪は「SCT」のオフィスにいた。椅子に腰掛け、テーブルへ置かれた書類へ目を通す澪。
「こういう組織なんだ。放っておくと、勢力を拡大しかねない。何としても、それを防がねばならない。そのためにはまず、傘下を壊滅させる。現在起きている事件はその傘下の組織の人間によるものだからな」
顔を上げる澪。視線の先には、腕を組む「SCT」の代表、
澪が書類を一枚捲ると、傘下の組織の人間が起こした事件が記載された書類が。
「こんなに…」
澪はそう言葉を吐くと、眼光を鋭くさせる。
「凶悪な事件ばかりだ。ここに載ってる事件の犯人は既にあの中。我々としては、残党を全員仕留め、壊滅に追いやりたい」
澪は表情を変えることなく、書類に記載された文字を目で追う。
「だからこそ、君に声を掛けた。我々の。そして、人々の希望の光となってくれるであろう君を」
勇吾の続く言葉にゆっくりと顔を上げる澪。
目に映るのは強面の風貌からは想像もできないようなやさしい表情を浮かべる「SCT」の代表の姿。
一瞬だけ目を閉じた澪はやさしさの中に強さの感じられる表情で小さく頷き、再び視線を書類へ。
すると。
ピリリリ…。
「失礼」
携帯電話の着信音。勇吾はスラックスの右ポケットから携帯電話を取り出し、画面をタップ。
「どうした?」
そう応答した勇吾の表情は一気に引き締まる。
時折小さく頷き、応える勇吾。
「そうか。引き続き細心の注意を払って進めてくれ。じゃ、頼んだぞ」
通話を終え、勇吾は携帯電話をスラックスの右ポケットへ。
同時に、オフィスのドアが開き、一人の男が姿を現す。
「勇吾さん」
二十代と思われる男。勇吾は「おお」と応えると、彼の元へ。
あの若い男は何者なのだろう。そのようなことをふと思い、再び視線を書類へ向ける澪。
「そうか」
「新たに一人。ですが、まだ氷山の一角」
「そうだな」
「何かあったらまた伺います。そして、ピンチになったらいつもでお呼びください」
「ああ。頼んだぞ」
若い男は雄吾に頭を下げ、オフィスを出る。ドアが閉まる音と同時に、澪は書類を更に一枚捲る。
「まだまだ先は長いな…」
勇吾はそう言葉を漏らし、椅子へ腰掛ける。そして一言、澪に詫びの言葉を入れ、こう話す。
「今の男は我々に協力してくれている団体の人間でね。あの組織の内情を調べ、こちらに報告。その報告に基づいて、こちらが動く」
顔を上げる澪。
「パートナーのような存在だ」
勇吾は腕を組む。
「今入った報告では、新たに傘下の人間が一人、何かを起こしたそうだ。次々と出てくる。全員仕留めるのはだいぶ先。だが、その芽は摘まなくてはならない。人々の安心のために。平和のために」
そう続けた勇吾はテーブルに置かれた封筒を右手に取り、書類を抜き取る。そして、鋭い眼光で文字を追う。
一枚目の書類へ目を通し終えると、唸るように息をつく。
「そうなると…」
右手人差し指で自身の顎を撫でる勇吾。
書類の文字を目で追っていた澪はある文字に目が留まる。
そこには。
「傘下の中核を…」
その文字を音読するように、勇吾の声が。
澪が再び顔を上げると、勇吾は正面を見つめていた。
まるで、二人の考えが一致したかのようだった。
「それが手っ取り早いかもしれません」
澪の言葉に勇吾は口元を緩め、小さく頷く。
「そうだな」
今度は澪が頷く。
「それでいこう!」
勇吾は両掌で両膝を「パン」叩くと立ち上がる。
同時に澪も。
「はい!」
そして、二人は改めて握手を交わした。
翌日、朝九時過ぎ。
「さてと…」
澪はある場所へ足を運んだ。
そこは。
「ここがアジトか」
澪の目の前に映るのは倉庫のような建物。入口はシャッターで閉まっている。踏み込むためにはこのシャッターを持ち上げなければならない。
シャッターの前へゆっくりと歩を進める澪。
すると、次の瞬間。
「ああ。上からの命令だ」
敷地内に男の声が。
澪は声のする方向へ視線を向ける。
「来たか…」
そして、物陰に身を潜め、気配を消す。
「頼んだぜ」
男は通話を終えると、シャッターを持ち上げ、中へ。そしてすぐに、シャッターがゆっくりと閉まる。
物陰に身を潜めたまま、澪は空を眺める。
「あいつが中核の一人だな…。よし…」
小さく頷いた澪はゆっくりと立ち上がり、誰にも見つからないように敷地内を出る。
そして、ジーンズの右ポケットから携帯電話を手に取り、勇吾に連絡をつける。
「お疲れ様です。丁度今、アジトに入っていきました」
勇吾の言葉に小さく頷く澪。
そして、指示を仰ぐ。
「分かりました」
通話を終え、澪は携帯電話を右手で握ったまま、建物を見つめる。
「まずは傘下から…。一気に仕留めるのは難しいかもしれない。でも、不可能じゃない…」
澪は視線を右手で握った携帯電話へ。
「ですよね、鮫島さん」
その言葉からすぐ、携帯電話に一通のメールが入る。画面を開く澪。
送り主は勇吾。
画面にはただ一言。
-頼んだよ。-
画面を見つめ、小さく頷く澪。そして、何かのエンジンがかかったかのように白いシャツの長い袖をまくる。
「待ってろよ、悪党ども…!」
美しい顔は一気に鬼神と化す。
そして、携帯電話をジーンズの右ポケットへ入れ、勇吾から指示された次なる場所へゆっくりと歩を進めていった。
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