Destruction ~クールファイター・ミオ~

Wildvogel

第一話 朱雀澪

 「どけ、オラ!」



 一人の男の声が夜の繁華街に響く。男はひったくり犯。左手に白いバッグを持ち、奇声を上げる。


 街を歩いていた朱雀澪すざくみおは男の声に誘われるように繁華街へ。同時に、バッグを持ち、走る男の姿が彼女の目に映る。



 「ひったくりよ!」



 バッグの持ち主と思われる女性の声が響く。


 その瞬間、何かの血が騒いだかのように澪の眼光が鋭くなる。


 男の姿がはっきりと澪の目に映る。



 「どけ!」



 男は澪に乱暴に言葉を吐き捨てる。


 そして、右手に何かを持つ。



 繁華街は悲鳴のような声に包まれる。


 しかし、澪は全く動じなかった。



 「どかないよ…」



 澪が呟くように言葉を発すると、男の右腕が伸びる。澪はいとも簡単に男の右腕を左手で掴む。


 そして、男が声を上げるほどの握力で右腕を握る。


 悲鳴のようなものは止み、男の声が繁華街にこだまする。


 澪は一切、表情を変えない。


 しかし、握力は更に強まる。


 男の声は更に大きくなる。


 バッグは、地面を叩く。


 同時に、澪はバッグを右手で拾う。そして、男の右腕から離した左手に握り拳を作る。


 それからまもなくして。



 ドスッ。



 男は腹部に手を当て、その場にうずくまる。


 睨みつけるように男を見つめる澪。



 「その程度か」



 男にそう言葉を吐き捨て、澪はその場から去る。そして、バッグを持ち主である三十代と思われる女性へ。



 「ありがとうございます…!なんとお礼をしたらいいか…」


 「礼には及びません。お気を付けて」



 バッグを受け取った女性は深々と澪に頭を下げ、繁華街を出る。彼女の背中を見届けた澪は視線をあの男へ。



 「さてと…」



 そう言葉を漏らし、男の元へ歩を進める。



 「おい」



 澪が声を掛けると、男はビクッとするように肩を上下させる。そして、ゆっくりと顔を上げる。



 「この街で二度と問題を起こさないように。次、何かしたらこんなもんじゃすまねえからな?」


 「は、はい…!も、もう二度としません…!す、すみませんでした…!」



 男はゆっくり立ち上がると、足早にその場を去った。


 男の姿が見えなくなると、澪は繁華街を歩く。贈られる拍手に謙遜するように応える澪。


 しばらく歩を進めると、彼女の背後から一人の男性が声を掛ける。


 

 「ねえちゃん、ねえちゃん。あんた凄いな」



 澪が振り向くと、目の前には六十代と思われる白髪まじりの短髪で、強面の男の姿が。


 

 「あんたのその強さを見込んで、頼みたいことがあるんだ」


 「頼みたいこと?」



 男の話に耳を傾ける澪。



 「そんな組織が?」


 「そうなんだ。実はね、私はその組織を壊滅させようと、いろいろ手を打った。しかし、全て失敗に終わって。その組織を壊滅させないと、大きな騒ぎになる。私はなんとしてでも、その組織を壊滅させたい。平和な日常のために。そこで、君にこの頼みだ」



 男は灰色のジャケットの左胸ポケットから何かを取り出すと、澪へ。


 澪が両手で受け取ったものは。



 「平和のために立ち上げた団体でね。力を貸してくれる人を募集してるんだ。危険と隣り合わせだが、何かあった時はしっかりフォローする」



 男が代表を務める団体名が記された名刺だ。


 

「SCT。『Secret combat troops』の略だ。訳すと、秘密戦闘部隊」



 男は腕を組む。



 「平和な日常を。人々が安心して暮らせる日常を。我々の願いだ」



 澪は名刺を眺め、唸るように息をつく。


 

 悪を滅ぼす。澪は幼少の頃から口癖のように友人などにそう話していた。笑われることもあったが、澪は本気だった。


 そしてこの時、現実味を帯びてきた。



 澪は視線を名刺から男へ。



 「あの、伺ってもよろしいですか?」


 「何でもどうぞ」


 「あなたが代表を務めるこちらの団体には何人在籍しているのでしょうか?」



 澪が尋ねると、男は「ふっ」と口元を緩め、こう答える。



 「今はね、男女三人ずつが在籍している。同じミッションについていてね。私が君に話した組織とは違う組織に関するミッションだ。その二つの組織は密接な関係があってね」


 「密接な関係…?」


 「ああ。まあ、傘下のようなもんだ。まずは、その傘下を壊滅させようと、六人をそのミッションへ送り出した。報告によると、順調だそうだ」



 澪は「なるほど」と言うように頷く。同時に、気持ちが傾いていく感覚を覚える。



 「是非とも力を貸してほしい。もう一度言うが、危険と隣り合わせ。だが、何かあった時はしっかりフォローする。そこは安心してくれ」



 澪の目に映る男の目に「嘘」の文字はなかった。


 

 澪は一度目を閉じ、自身へ問う。


 

 自分はこの団体の力になることができるだろうか。そして、人々に貢献できるだろうか。


 澪の心はすぐには答えず、考えをまとめる。


 すると、男のやさしい声が。



 「ヒーローになって人々を救いたい。悪を滅ぼしたい。私は幼少の頃、そのような夢を抱いていた。そして今、私は…」



 その言葉が幼少の頃の澪と重なった。



 澪は気持ちが固まったようにゆっくりと目を開け、視線を男へ。


 そして、少しの間の後。



 「尽力いたします。人々の安心のために。平和のために。そして、あなたの団体のために」

 


 覚悟の表れと取れる表情で力強く応えた澪。


 男は澪の目を見つめ、微笑み、小さく頷く。



 「よろしく頼むよ」



 男の言葉に澪は僅かに口元を緩ませ、小さく頷いた。

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