第19話

 綿津見の大袈裟な言葉にも関わらず、女は、

「そうですか、こちらこそ、厚かましいお願いをしてしまって、すみませんでした。

 私の事、詮索好きな女だと思ったのではありませんか?」


 綿津見は、

「少しね。」

 おどけて見せた。


 二人は、そのまましばらく微笑み合っていた。


 綿津見は話をしながら、彼女が碧と同じ瞳をしているのに気づいた。

 なぜ、もっと早く気づかなかったのだろうか。

 そうとしか考えられない。


 碧より強い印象を持つ、微かにみどりがかった様な瞳が綿津見を見つめている。


 祖母の緑、母のみどり、妻のみどり

 そして、今、綿津見の前にいるのは娘の美土里みどり


 宿命の年齢が近づいた父の姿を憐れんだか、それとも名乗り出ようとしたのか。


 その時、二人の後方から、

「父さん!」

 という声がした。

「息子ですよ。

 どこをほっつき歩いていたのか叱られそうだ。

 紹介しますか?」

 

 女は、逆光の中を歩いて来る綿津見の息子をじっと見つめている。

「いいえ。」

 小さく答えると、今度は綿津見の目を見ながら、はっきりと、

「いいえ、結構です。」


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