第18話

 その息子も今年二十三歳になりました。

 月日の経つのは早いものです。

 息子は私が言うのもなんですが、素直で優しい子に育ってくれたと思います。



 妻はいません。

 息子を産むとすぐに亡くなりました。

 息子の小さいうちは再婚話もありましたが、お断りしてきました。


 それから、私には美土里みどりという娘もいます。

 生まれてすぐ養女に出してしまいました。


 家庭の事を訊かれると、私はいつもこの様に話してきました。


 今迄、何度、誰かに聞いて欲しいと思った事でしょう。

 全て話してしまった今は、何だか息子の出産時を思い出しました。」


「娘さんに会いたいと思いますか?」

 女は唐突に尋ねた。


「勿論、会いたいです。

 でも、自分に会ってくれるでしょうか?


 会えなくてもいいんです。

 美土里に気づかれない様に、こっそりとでも…。


 美土里には会う事は無いでしょう。

 これが宿命ですから。


 私には時間が限られています。

 父も祖父も、四十六歳で寿命が尽きています。

 

 今日は、もう一度、碧との思い出の場所を見たいと、息子に無理を言って連れて来て貰ったんです。


 私は、碧と出会った浄土ヶ浜をまた見る事が出来た。

 そして、あなたと出会えて、もう思い残す事はありません。」

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