第16話

 卵を手にした時、碧に伝えようとしましたが、言葉になりませんでした。

 だから、私は泣いたのです。

 碧の甲羅に涙が零れました。

 それだけで、碧に伝わったでしょうか。


 しばらく放心した様になっていましたが、汗ばんだ身体にシャツを着ると、ようやく決心がつきました。

 この子を育てよう。

 元々、北海道に向かう途中です。

 一からやり直そう。


 十ヶ月したら生活も落ち着いてくるだろうから、子供を育てる蓄えは出来るだろうと。


 私は何も無かった様に北海道へ行き、友人の牧場に向かいました。

 観光をしてからの予定を前倒し、です。


 牧場では、友人とはいえ、私は見習いです。

 暗いうちから夜遅く迄、色白だった肌も逞しく焼け、貧弱だった胸も鍛えられました。

 子供が生まれるという、責任感があったからでしょうか、慣れない牧場生活も苦しさは感じませんでした。


 卵は、タオルで包んで人目に付かない様に用心していました。。

 本当は抱くのが良いのでしょうけれど、そうもいきません。


 そろそろ臨月になる頃、卵にひびが入ってきました。

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