第8話

 今と変わらず、吸い込まれそうに青い海に、白い砂浜と岩肌とが赤松と見事なコントラストを見せるこの浜は、その昔、霊鏡和尚が、

「さながら、極楽浄土の如し」と感激した事から名付けられたといいます。


 父の四十九日を終えた私は、それまでの車の営業を辞めて、職探しをしていました。

 不景気で転職も難しく、頼る親戚もいない私は、時間だけ持て余している有り様です。


 僅かな貯蓄に心細くなった私は、大学時代の友人の誘いを受けて北海道行きを決めました。


 かつて教師を目指していた友人の、

「自然は厳しくて優しい、人も同じ。」という言葉と共に、継いでいた牧場で、一緒に働かないかと誘ってくれたのです。


 黄金色の田園風景が続く東北自動車道をひたすら走り、SAで地図を見ながらコーヒーを啜っていると、不意に海が見たくなりました。


 少し位寄り道しても、という軽い気持ちで盛岡ICを降り海を目指したのです。


北海道に行くのですから、間もなく見る事が出来るのに、です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る