第6話

『私は、あの事について迷っている。

 私の迷いは、近い将来、繰り返されるであろう事の躊躇い故だ。

 

 だが、時が経つにつれ、あれは夢だったと思い込もうとした。

 しかし、運命とは皮肉なもので、私は時が近い事を知っている。

 知っているからこそ、迷うのだ。


 私の迷いは、あきらの為。

 それを世代交代というよりは、むしろ宿命と呼ぶ方が相応しい。

 

 逃れる術を知らぬ虫の様に、蜘蛛の糸に掛かり、粘り付く糸の中でもがき、死を待っている。


 しかし、これは私の父がかつて選び、そして息子である私が選んだ道なのだ。

 私の道は、私の代で絶えなければならない。

 

 父達の引き起こした轍は、子孫に迄深く長くなるかもしれない。

 私は、玲が父の轍を踏まぬ様に願う。


 申し訳無く思いながらも、私は終局を迎えようとしている。

 迷いはあるものの、みどりの元へ行く、それだけが楽しみだ。

 翠、長い別れだった。』


 

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