第2話
女は、音もさせずに、白髪混じりの綿津見の背後にやって来ると、
「ご気分でも悪いのですか?」
と、声を掛けた。
女が、綿津見の方へ顔を傾けた時、
「いいえ、大丈夫です。」
綿津見は、青白い顔を逆光の中に向けると、ハッと息をのんだ。
そして、瞳孔迄も開くかのように、女の顔を凝視する。
さすがの女も、綿津見の反応にたじろぐ。
綿津見はそれを察すると、
「いやあ、すみません。
あなたが私の知り合いにあまりにも良く似ていたので、失礼にも、ついジロジロと見てしまいました。
本当にすみません。」
女に困った様な笑みを向ける。
女は、その言葉につられて、引きつった笑みを浮かべた。
「沈み込んでいらしたようなので、ご気分でも悪いのかと…。」
あとはどう言ったら良いか、これ以上は失礼かもしれないと、口ごもる。
綿津見は、笑った。
「身投げでもしそうに見えましたか?」
女の気遣いが有り難かったのだ。
女は恐縮する。
「いいんです。
身投げとは古臭いですが、当たらずも遠からず、というところです。
いや、冗談です。
この歳になると、あれこれ悩む事が多くて。」
綿津見は、女から目を逸らすと、浜に向かって深く息を吸った。
「もう、随分と前の事です。
私もあなた位の歳には、前ばかりを見ていたものですが、歳をとってくると悔やむ事が多くて。
と、言っても、私はまだ四十六ですが。」
歳の割には白髪の多い髪をかき上げる。
「昔、この浄土ヶ浜で、あなたにそっくりな女性に出会いましてね。」
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