第29話【ゴブリンとの戦い 終結】
オーガと人間、そして天狗の連合軍が、ついにゴブリンの集落の手前で停止した。4000もの兵士が整然と並び、静かにその巨大な威圧感を放っている。
その光景はまさに圧巻であり、遠くからでも圧倒的な存在感を誇示していた。兵士たちは緊張感を漂わせながらも、その目には確固たる決意が宿っている。
その中で、オーガの兵士の一人が、集落へと向かって歩き出す。彼は冷静な足取りで進み、ゴブリンたちに使者として交渉の意向を伝えるためであった。彼はゴブリンの集落の門に到着し、慎重にその門を叩いた。
集落の門の向こう側では、数人のゴブリンの兵士が警戒を強め、こちらを睨みつけている。その鋭い視線を受けながらも、オーガの兵士は淡々と要件を告げた。
「我々の長であるルークと天狗族の長カゲロウが、貴方たちと交渉したいと望んでいる。許可いただけるだろうか?」
その言葉に、ゴブリン兵たちはしばらく顔を見合わせたが、やがて一人がうなずき、使者を案内するように合図を送った。
数分の待機の後、承諾の知らせが届き、ゴブリンたちは集落の中央へ案内するように促した。ヘールは、目の前の戦力差に不安を抱きつつも、やむを得ない判断で彼らを受け入れることを決めたのだった。
ルークとカゲロウは、護衛として共に随行しているティアと共にゴブリンの集落に足を踏み入れた。集落の様子はオーガのそれと似ていたが、ゴブリンたちの人口が多いために、規模がかなり大きく、家々が密集して並んでいた。
しかし、彼らの姿を見るや否や、周囲のゴブリンたちは驚きと恐怖から、次々とその場を離れていき、あたりにはほとんど人影が見えなくなった。集落全体が静まり返り、張り詰めた空気が流れている。
やがて、ゴブリンの兵士が一行を案内し、集落の中央にある大きな建物にたどり着いた。中に入ると、中央に広がる大きな部屋にはヘールを中心に複数のゴブリンたちが並んで座していた。
彼らの表情には緊張と不安がにじみ出ており、一触即発の空気が部屋全体に漂っていた。ルークとカゲロウはしばらく周囲を見渡し、相手の緊張を解すため、柔和な表情を浮かべて静かに腰を下ろした。
ややあって、ルークが口を開いた。その声音には冷静な重みがあり、部屋中にしっかりと響き渡った。
「まずお聞きしたいが、降参するご意向はあるのか、それともこのまま戦い続ける覚悟があるのか、どちらを望まれている?」
ルークの問いに、ヘールは一瞬顔を強張らせた。若き彼にとって、この場で決断を下すことは非常に重い負担であり、心の中には葛藤が渦巻いていた。
しかし、相手の軍勢の規模と、自分たちの置かれた現状を冷静に見極めた結果、彼は戦いを続ける余力がないことを痛感していた。やがてヘールは覚悟を決めたように顔を上げ、静かな声で答えた。
「降参する。…我々はどうすればいいだろうか?」
その答えを聞いたカゲロウが、わずかに微笑みを浮かべて答えた。彼の声は落ち着いていたが、その中には妥協を許さない厳しさが含まれていた。
「まず、オーガへの臣従を誓って頂きたい。そして、貴方たちの集落にいる奴隷は全員解放していただく。
さらに、人質を頂きたい。貴殿がゴブリンの長であることを認める代わりに、その他の家族や親族は全員オーガの集落で過ごしてもらう。
…安心してほしい。貴殿が裏切らない限り、手厚くもてなすつもりだ。」
カゲロウの条件は冷静で理路整然としており、その言葉には何ら余計な感情が含まれていなかった。ヘールはしばらくその条件を黙って聞いていたが、やがて深いため息をつき、静かにうなずいた。
「分かった。…条件を受け入れる。」
その確かな決意が込められた言葉に、ルークもゆっくりとうなずいた。彼は安心したように微笑みながら、交渉の場を離れることにした。
目的を果たした彼らは、そのまま一行で集落を後にし、自分たちの陣営へと戻っていった。
陣営へ戻った後、ルークは深く息を吐き、ホッとした表情を浮かべた。彼の目には安堵の色が浮かんでいる。
「無事に交渉が終わってよかった…。この軍の7割は、兵士じゃないオーガと人間たちだったからな。本当に無事に終わってよかった。」
ルークは戦いを避けられたことに安堵し、遠くを見つめるように目を細めた。先頭にいたのは実戦経験を積んだオーガや人間、天狗たちの精鋭だったが、後ろには急ごしらえの装備をまとった住民たちが並んでいた。
次の戦いでゴブリン達を確実に降参させるために、危険な謀ではあるが、戦闘をしない約束で、兵士ではないオーガと人間達を連れてきたのだ。
交渉しだいでは戦になってしまうため、この謀が成功したことにルークは心から安堵していた。
一方で、カゲロウも淡々と語り始めた。
「あのように混乱している状態の相手には、大抵の策が有効だ。あの長が死んだ以上、この謀が失敗する可能性はほとんどない。」
「まぁ、確かに......。それと今後について、後のゴブリンとの細かいやりとりはカゲロウ殿に任せてもよろしいでしょうか。」
「あぁ...問題ない。」
ルークとカゲロウの会話に、ティアは驚きの表情を隠せなかった。彼女はこれまで、戦いの場では純粋に力で押し切ることを信条としてきた。
だが自分達が戦わず敵を動かすという考え方は、彼女にとって新鮮なものであり、強い印象を受けたようだ。戦場での謀略に疎い彼女にとって、ルークとカゲロウのやり取りは刺激的であり、その巧みさに感嘆していた。
「この二人から学べることは、まだまだありそうだ…」
ティアは静かに呟き、心の中で決意を新たにした。これからの戦いにおいて、自分が強くなるためにはただ力だけではなく、知恵も必要なのだと強く感じた。
彼女は新たな目標を胸に抱き、共に進む二人の背中をじっと見つめながら歩き続けた。
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