第23話【ゴブリンとの戦い①】

朝日が地平線から昇り、冷たい空気が戦場に満ちる中、オーガ軍とゴブリン軍が対峙していた。両軍の兵士たちの息づかいが静寂に響き、武器を握る手に力がこもる。緊張感が重く、霧のように戦場を包み込んでいた。


やがて、ゴブリン軍の中央部でざわめきが起き、前線のゴブリン兵たちが突撃の合図を受け取った。ゴブリンの軍師の鋭い指示に従い、先頭の700人が一斉に突進を開始する。


敵陣を飲み込むようなその動きは、獰猛な肉食獣が餌に襲い掛かる様子を思わせる。その眼差しには殺気と興奮が宿り、血に飢えたように前進していく。足音が地面を揺らし、咆哮が戦場に響き渡る。


彼らの猛進は、今や押しとどめるのが難しい勢いとなり、オーガ兵たちに迫っていた。


しかし、オーガ兵たちは動じることなく盾を構え、迎撃の構えを崩さない。その冷静な姿勢には、数に劣る彼らの決意と、日々鍛え抜かれた強靭な精神が表れていた。


彼らは密集陣形を取り、盾を高く掲げてゴブリンの突撃を受け止める準備をしていた。突進するゴブリンたちが目前に迫り、その恐ろしい勢いに圧倒されそうになるも、オーガ兵たちは一歩も引かない。


ゴブリンの軍勢がついにオーガ兵と衝突した瞬間、金属音と叫び声が交差し、戦場が一気に激しい混沌と化した。オーガ兵たちは盾を巧みに使い、敵の攻撃を防ぎながら反撃の機会を狙う。


隙ができた瞬間、力強く槍や剣を振り下ろし、ゴブリンたちを次々に倒していった。彼らの戦い方は、守りを中心にしつつも確実に敵を仕留めるもので、オーガ軍の粘り強さが如実に現れていた。


一方、ゴブリン軍師は戦況をじっと見つめ、目を細めていた。斥候の報告通り、オーガ軍の伏兵は見当たらないようだったが、警戒は怠らなかった。


目の前に展開されたオーガ軍の布陣は、以前の彼らの戦術とは違い、綿密に考えられているように見えた。その戦略的な配置に軍師は驚きと少しの感心を覚え、つぶやいた。


「ほう、以前よりも強くなったな……」


敵軍の意図を見抜こうと考えを巡らせる軍師だったが、オークの長が苛立ちを隠さずに彼に圧力をかけてきた。軍師の隣で冷たい視線を送り、低い声で命じた。


「オーガどもが先手を取って布陣しているとはな…今日中に奴らの長と全軍を抹殺しろ。時間をかけるつもりはないぞ。」


その命令には冷酷な決意が込められており、軍師は内心の緊張を押し隠して頷いた。彼はすぐに斥候を送り、再度森に伏兵がいないか徹底的に調べるよう命じた。


頭の中で次々と戦術を組み立て、彼はオーガの長を討ち取るための新たな手段を模索し始めた。


その頃、ルークは戦場の一角から状況を観察していた。戦いが始まってからすでに1時間が経過し、兵士たちの表情には疲労が見え始めていた。


しかし、弟のナルカは前線で士気を高め続け、声を上げて兵士たちを励ましていた。その力強い言葉が兵士たちの耳に響き、彼らは再び気力を奮い立たせて戦っていた。


だが、圧倒的な数の差にはどうしても抗えず、徐々に押し返され始めているのが明らかだった。体力を消耗し、疲れ果てた兵士たちが少しずつ後退し始めるのを見て、主人公は馬を駆けながら大声を上げた。


「まだだ! まだ全員、気を抜くな!勝機はある!」


その言葉が戦場全体に響き渡り、オーガ兵たちの目に再び力が宿った。主人公の叫びが皆の心に火を灯し、兵士たちはさらに士気を高めて敵に立ち向かった。


その後、30分程が経過した戦場で、ルークは作戦決行の判断を行い、護衛の兵士が持っていた、赤い旗を受け取り高々と掲げた。鮮やかな赤色が青空に舞い、日差しを受けて一瞬きらめく。


オーガ兵たちの視線がその旗へと向けられ、彼らには旗の意味はただの士気高揚に見えたかもしれない。


しかし、ルークが狙っていたのは別の目的だった。彼の真意を知るのは、あのなかでレンジとナルカのみ。その赤い旗こそが、決して見逃してはならない合図であり、彼らが練り上げた奇襲の開始を示すものだったのだ。


旗が振られると同時に、レンジは背後の部隊に素早く目配せし、静かに指示を出した。東からの奇襲部隊150名が、音もなくゴブリン軍の長と軍師を目指し、忍び寄っていく。


数秒のうちに、レンジ率いる奇襲部隊は突撃を開始した。彼らの突撃は、オーガ軍が押され始めた絶妙なタイミングであり、まさに戦場の緊張を一気に打ち破る鋭い刃となった。



時は少し遡り、ゴブリン軍師は、戦場の動きを冷静に観察し続けていた。彼の心中には、ルークが掲げた赤い旗の意味を解読しようとする緊張感が漂っていた。


彼は、オーガが決死の覚悟で挑んでくることを予測しており、その標的は自ら、つまりゴブリンの長であることも見抜いていた。


「ふん、オーガの長を討つために、何らかの作戦を考えているのだろう。」と、軍師は思案する。


「だが、こちらには500の精鋭がいる。奴らがどう来ようと迎え撃つ準備はできているぞ。」


赤い旗が見えてから数分後、レンジ隊の動きが視界に入ると、軍師は心を高揚させた。まさにこちらに突撃してくる瞬間を捉え、「来たか…!」と呟いた。


レンジ隊はゴブリン軍師とゴブリンの長がいる位置に向かって大声を上げながら突撃してきた。


しかし、その後のレンジ隊の動きにゴブリン軍師は驚愕する。

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