第22話【開戦前】
朝焼けが昇り始める頃、戦場に向かうオーガ兵たちの足元には露が降り、冷えた空気が鋭く肌を刺すように感じられた。
彼らは緊張で息を飲み、甲冑や武具がわずかにきしむ音が響く。森を抜け、視界が開けた場所に出ると、そこには広がる開けた土地が待ち受けていた。ここが、今日の決戦の地だ。
森の影がかすかに残る中、オーガ兵たちは一列に整然と並び、ひとりひとりが戦いに備える。列の前に立つルークとナルカは、それぞれ力強く地面に足を踏みしめ、肩に掛けた武具を背筋の伸びた姿勢で支えていた。
ルークは全軍を見渡し、そして兵士たちは彼の視線に応え、無言のまま互いに強い絆を確認し合った。
兵士たちの中には、互いに頷き合う者、無言で手を握りしめる者、深く息を吸い込んで平静を保とうとする者もいた。これまでの訓練で築いた信頼が、今、この瞬間に試されようとしていることを全員が理解していた。
戦闘への恐怖もあったが、それ以上に仲間と共に戦う覚悟が心に強く宿っていた。
ルークは、全軍の前へと静かに進み出た。そして、声を張り上げた。その声は、凛とした朝の空気を突き抜け、兵士たちの鼓動に呼応するかのように響き渡った。
「…全員で、この戦いを乗り越えて、新しい未来を切り開こう!」
その言葉は、まるで彼らの心の奥に眠る炎を一気に燃え上がらせるかのようだった。ルークの声が響き渡ると、オーガ兵たちの胸の中に熱い感情が広がり、これまでの不安や迷いが一気に消え去っていった。
そして、その瞬間、力強い雄叫びが大地を揺るがすかのごとく響き渡った。兵士たちは口々に気合を入れ、目には鋭い覚悟と決意が宿り始める。
槍や剣が一斉に掲げられ、彼らの目には燃えるような闘志が宿っていた。彼らの体から放たれるエネルギーが空気にまで影響を与え、目に見えない圧が周囲に伝わっていくのが感じられるほどだった。
これは、ただの戦意ではなく、仲間たちと未来のために戦うという強い使命感と共に生まれた、真の闘志だった。
ゴブリン軍師は、青白い朝焼けの下、冷たい風が吹き抜ける中で、斥侯からの報告を受け取った。
「オーガ軍が森と森の間の開けた場所で、約500の兵士を布陣しています。また、森には今のところ伏兵は見当たりません」
と、斥侯は緊張した面持ちで続けた。報告を聞いた軍師は、その言葉を噛みしめ、眉をひそめた。
「ほう、以前よりも賢くなったようだな…」
彼は驚きと共に、疑念の念を抱く。オーガたちが交渉日よりも前にこのように警戒し、布陣を整えている姿があるということは、ゴブリンのなかに裏切り者がいたのであろうか。
だが、この戦力差で他のゴブリン達が裏切る可能性低い。オーガ達が自分達の集落に潜伏していたのであろうか...
また、ゴブリン軍師はオーガ兵がもう少ないことを察し、短期決戦を狙っていることも察知していた。
「我が長を討ち取るための策略があるのだろうな......」と冷静に分析する。
その後、彼は全軍に指示を送った。
「特に伏兵に対しては、油断せず徹底的に警戒せよ。まだ森に隠れた敵がいるかもしれん」
と、慎重な口調で命令を下した。心の内では、不気味な緊張が募る。これまでとは違うオーガ軍の結束と統率を感じ取り、彼はその力に脅威を抱く。
斥侯には再度、森に伏兵がないかを確認するように命じた。心の中で「オーガ軍はこれまでにない結束と闘志を持っている。決して侮ってはならぬ」と自戒する。全力を尽くす必要があると、彼は痛感した。
やがて、ついにゴブリン兵1200とオーガ兵450が対峙する時が訪れた。広がる戦場の中心で、両軍は睨み合っていた。オーガ兵は少数でありながら、その全員が強靭な肉体と揺るぎない闘志を持ち、迫り来るゴブリンの大軍にも怯むことはなかった。
ゴブリン軍師は、心に強い決意を抱えながら、次なる行動を考え始めた。
緊張が張り詰めた戦場の中央、ゴブリン軍師は護衛兵士たちと共に馬に乗り、前に進み出た。その姿を見た者たちは、彼が何かを伝えようとしているのだと直感する。
主人公も護衛兵士と共に馬に乗り、彼らの前に進み出た。周囲の兵士たちの視線が集中し、息を呑む中、両軍の雰囲気は一瞬、静まり返った。
ゴブリン軍師は冷静な声で言った。
「お前たちは、降参せずにここで戦う選択肢をとったと...考えていいんだな?」
「ああ、そう捉えて貰って構わない。」
ルークは何も迷いもせず答えた。
「では、今ここで降参すれば、お前たち全員の命を助命するとしたら....どうだ?」
その言葉は、彼の計算された狡猾さを感じさせた。
しかし、ルークはその提案に対し、強い反発を感じた。
「裏切り者の言葉は、決して使用することはできない。お前たちは何度も我々を裏切ってきた。そんな軽薄な言葉に耳を貸すわけにはいかない。」
彼の声は、怒りと決意が交錯していた。
ゴブリン軍師は、主人公の言葉に一瞬の静寂を感じた後、冷笑を浮かべた。
「ではここで叩き潰すとしよう。」
彼の眼には、戦う意志が宿っていた。勝利への欲望が燃え上がり、彼は全力で攻撃を仕掛けるつもりでいたルークは、毅然とした態度で応じた。
「受けて立つ。」
そう言い残し、ルークは馬を引き返し、オーガ兵たちの陣へと戻っていった。周囲の兵士たちも彼の後に続き、心に闘志を秘めながら戦闘の準備を整えた。
双方の意志が交差し、緊迫した空気が戦場を包む中、戦いの火蓋が切って落とされる準備が整いつつあった。
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