第24話【ゴブリンとの戦い②】
レンジ隊は突如として進路を変更し、一直線に700のゴブリン兵の側面へと襲いかかっていった。その突撃は予測不可能なもので、ゴブリン兵たちは驚愕し、秩序が瞬時に崩壊した。
彼らはまるで足元から地が崩れ落ちるような感覚に囚われ、次々に混乱に陥り、叫び声を上げながら慌てふためいていた。
「敵は何だ!?どこから現れた!?」と、ゴブリン兵の一人が恐怖に顔を歪めながら周囲を見回す。しかし、そんな暇はなかった。
レンジ隊は鋭い剣先を向けたまま、混乱の渦中にいるゴブリン兵たちを次々と突き崩していく。
一方、ゴブリン軍師もこの突如として発生した事態に驚きの表情を隠せなかった。冷静沈着で知られる彼も、この予想外の動きには心の動揺が表れていた。
彼の視線はレンジ隊の動きを追いかけ、何故、オーガの伏兵が自分たちではなく、700のゴブリン兵に突撃しているのかを疑問視した。
「なぜだ…なぜこちらに突撃してこないのか?伏兵として何の意味があるというのだ…」
彼は眉をひそめ、少しの間沈黙のまま考え込んだ。この戦況に潜む真意を読み解こうと、彼の思考は一瞬にして幾つもの可能性を巡らせていた。
そして、ようやくある仮説に思い至った。ゴブリン軍師の中で、冷ややかな推論が浮かび上がる。
「なるほど、オーガどもめ…これは短期決戦を装いながら、実は長期戦に持ち込むつもりか。兵士の数は二倍だが、戦力を削り取られ続ければ、こちらも持ち堪えられないことを理解しているのだな…」
ゴブリン軍師は奥歯を噛みしめ、その狡猾な策略に一瞬怒りを覚えた。だが、彼はすぐに冷静を取り戻し、対策を講じるべく決断を下す。
「後詰を送れ!」
と彼は声を張り上げ、残していた精鋭の400を戦場の中央に向かわせる命令を下した。彼の目には決意と鋭い戦略の光が宿っていた。
「今のうちにこのオーガどもを包囲するように囲め!総攻撃でオーガ兵どもを一人も残さず殲滅せよ!」
号令が発せられると同時に、400の精鋭部隊が統率の取れた動きで前線に進み出た。その姿はまるで一つの巨大な生物が動き出すかのようであり、周囲のゴブリン兵たちもその威容に士気を鼓舞された。
後詰の400は、戦場中央で激戦を繰り広げているオーガ兵たちを目指し、一心不乱に進んでいった。
この動きを察知したレンジ隊は、即座に行動を切り替えた。後詰の到来に気づくと、彼らは素早くゴブリン兵の側面への攻撃を切り上げ、戦場の中央から離れ、オーガ軍の後方へと向かい始めた。
400のゴブリン兵が戦場に加わった瞬間、ゴブリン軍の士気は劇的に向上し、その波動は戦場全体を包み込んでいた。ゴブリン兵たちは連携を強化し、まるで一つの巨大な生物のように押し寄せる。
彼らの怒号が響き渡る中、オーガたちはその勢いに押され、じわじわと後退を余儀なくされていった。包囲されていくなか、必死に踏みとどまろうとするものの、じわじわと押され、わずかずつ後方へと退いていく。
ゴブリン軍師は戦況を冷静に見つめながら、オーガの動きに確信を深めていた。彼らはやはり長期戦に持ち込み、ある段階で撤退し、森の中で奇襲してゲリラ戦を展開するつもりなのだろう。
この予想はすぐに、軍師の脳裏にある懸念を呼び覚ました。もしも森に逃げ込まれたら、ゴブリン軍は追撃に手間取り、消耗戦に持ち込まれることになる。そんな展開は、彼の計画にとっても最悪の事態だ。
「この戦いで終わらせねばならん…!」
軍師は即座に決断し、全軍にさらなる圧力をかけてオーガを押し込むよう命令を下した。そして、彼は中央で奮闘する精鋭部隊に加え、残りの50の兵士も投入するよう指示を出した。
ゴブリン兵たちはその命令に忠実に応じ、オーガ兵たちに激しい攻撃を仕掛け、一人でも多くの敵を打倒しようと闘志を燃やす。
激戦はさらに熾烈を極めたが、30分が経過する頃、ついにオーガ兵たちは後退を始めた。ゴブリン軍はその姿勢を見逃さず、追撃の態勢を整える。
戦場に響く足音と怒声の中、徐々にオーガ兵たちを包囲できているため、ゴブリン軍師の目には勝利の兆しが見え始めていた。彼の顔にわずかな笑みが浮かび、戦局を掌握することに自信を持ち始めていた。
その時、戦場の遠くからこちらをじっと見つめる鋭い眼差しがあった。カゲロウだ。戦闘の全貌を見定めていたカゲロウは、ゴブリン軍が追撃に熱中し、後方の警戒が薄れたのを見逃さなかった。
彼は機を一瞬たりとも逃さず、素早くティアのいる部隊へと戻り、その状況を報告した。
「今がチャンスだ。ゴブリン軍師の後方はがら空きだ。」
ティアはカゲロウの報告を受けると、鋭い眼差しを前方に向け、小さくうなずいた。彼女は目の前にいる人間や天狗、オーガたちを見渡しながら、力強く声を上げた。
「皆、今が機だ!我らが手を取り合い、ここで決着をつけるのだ!ゴブリンどもに、我らの意志の強さを見せてやろう!」
その言葉には、種族を越えた結束と戦意が込められていた。彼女の叫びに反応するように、人間も天狗もオーガも、一つの心を持ったかのようにうなずき合う。仲間たちの目に、ひるむことのない覚悟が浮かび、彼らはそれぞれの武器を強く握り締めた。
「我らには共通の敵がいる!未来を奪われぬために、恐れるな、進め!」
ティアの熱意と共に士気が高まる中、彼女は先頭に立ち、凛とした表情で振り返ることなく突撃を開始した。その勇姿は、まるで彼女が種族を超えた象徴であるかのように皆を奮い立たせ、彼らはその背中を追い、力強くゴブリン軍へと突撃していった。
一方、ゴブリン軍師は依然として戦場の様子を注視していたが、ふと異変に気付いた。遠くから地を駆ける蹄の音が響いてくる。重厚な足音が次第に近づき、まるで地響きのように戦場全体に広がっていく。
「馬の音……?」彼は眉をひそめ、後方を振り返った。
その視線の先には、ティア率いる混成部隊が勢いよく突撃してくる姿があった。
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