第18話【交渉】

 洞窟の静寂を破るように、天狗の頭が問いが響く中、ルークの横に立つ旗が、松明の火を受けて鮮やかに揺れていた。それの旗は誇り高い意志を感じさせるものであった。


 旗には、黒の背景にどこが見覚えがある白く描かれた茎のよう絵が大きく描かれていた。まるで力強く成長する葵の葉を思わせる形で、中央に円形の輪があり、その中に立った葵の葉が真っ直ぐに伸びていた。


 葵の葉の形は、凛々しさと優雅さを兼ね備え、旗全体に静かでありながらも力強い存在感を与えている。


 ルークは、彼が何を求めているのかを即座に察知することはできず、緊張が走った。白い仮面の奥には、冷静で何を考えているか全く読み取れない鋭い目が光っていた。


(この同盟が成立するかどうかは、自分が出す答えにかかっている……)


 ルークは冷や汗を感じながら、白い仮面の天狗の姿をじっくり観察した。すでに彼のステータスを確認していたが、その詳細が今一度、脳裏に浮かび上がってきた。


 名前:カゲロウ

 種族:天狗

 年齢:29歳

 職業:忍者、鷹匠

 力:D

 魔法力:D

 防御力:D

 魔防力:D

 軍略:B

 政務:A

 忠誠心:-

 スキル:変身、風刃


「鷹匠」という職業は気になるが、それよりも「政務」と「軍略」の高さがルークの意識に強く残った。カゲロウが相当の戦略家であり、相手を厳しく見極めていることを示していた。


 改めて、自分が今試されているということが、強く感じる。カゲロウの目は、こちらの一挙手一投足を細かく観察し、判断しているのだ。


「貴殿はそもそも、なぜゴブリンが貴殿たちに対して、こんなにも苛烈に攻撃しているのか、分かるか?」


 カゲロウが問いかけてくる。


 ルークは少し考えたが、すぐに答えが出なかった。自分はこの世界に来てからまだ日が浅く、詳細な情勢を把握していない。それに、天狗ほどの情報網を持っているわけでもない。正直に答えるしかなかった。


「分かりません。」


 自分の答えを聞いても、カゲロウは特に驚く様子を見せず、落ち着いた声で再び口を開いた。


「ゴブリンの北にはオークの集落がある。以前はゴブリンとの間で小競り合いがあったが、最近オークのリーダーが病死し、後継者争いになっている。今、オークは戦いどころではない状態だ。


 そして、ゴブリンの西にはリザードマンの集落があり、彼らは現在、魔王軍として出兵している。これにより、邪魔者がいないことから、ゴブリンにとってオーガを潰す絶好の機会となっているわけだ。」


 この情報を聞いて、ルークは内心驚きを隠せなかった。彼がこの世界に来てからゴブリン以外の集落の詳細な状況について全く知らなかったからだ。


 しかし、驚きに流されず、彼は冷静さを保ち、自分が出す答えを見極めようとした。

(ただゴブリンを倒すだけでは不十分だ。この戦いはもっと広い視点で考える必要がある……)


 自分の考えをまとめると、カゲロウの鋭い視線を正面から受け止めながら話し始めた。


「この先について、ただゴブリンを倒すだけでは、次に訪れる脅威を軽視することになります。確かにゴブリンの制圧は急務ですが、それだけでは長期的な平和は得られません。


 私は、ゴブリンを我々の配下に置くことで、無駄な戦闘を避け、オークやリザードマンとの不必要な対立も回避するべきだと考えます。


 さらに、彼らと同盟を結び、後方からの支援や情報の共有を図りながら、体制を整えるべきだと思います。」


 ルークの言葉にカゲロウはじっと耳を傾けた。彼の背後で待機していた天狗たちも、息を潜めて聞いているようだった。洞窟内の静寂が重く漂う。やがて、カゲロウは満足そうに頷いた。


「なるほど。貴殿はオークやゴブリンより、高い知性があることが分かった。だが、私が知りたいのはもっと先だ。


 ...貴殿の最終地点は何なのだ。」


 その質問に、ルークは一瞬言葉を失った。彼が何を目指すのか、どのような未来を描いているのか。目の前の天狗が、期待を込めてその答えを待っているように感じられた。


 ルークは深呼吸をし、自分の胸に秘めていた願いを口にする決意を固めた。


「私の最終地点は、魔族と人間が共存できる国を築くことです。」


 彼は静かに、しかし力強く言った。


「私たちの種族が互いに理解し、助け合う関係を築くことで、争いのない平和な未来を作りたいと考えています。貴方達や人間との同盟は、そのための一歩です。


 私たちが手を組むことで、敵対的な力を排除し、共存の道を見つけることができるはずです。」


 彼の心の中で、そのビジョンが明確に描かれ、確固たるものになっていることをカゲロウに示したかった。

 カゲロウはじっと彼を見つめ、ルークの真剣な眼差しをしっかりと受け止めているようだった。


「さらに、私は人間と魔族の文化を融合させ、互いに学び合う社会を築くことを目指しています。教育や技術、知識の共有を通じて、双方が豊かになれる国を実現したい。


 敵対するのではなく、共に成長し、未来を切り開いていきたいのです。」


 ルークの言葉は、自分の「神の経験値 ミッション」のための希望に基づいたものではあるが、彼の内に秘めた熱意を表現していた。彼はカゲロウの反応を伺いながら、さらに続けた。


「互いに支え合うことで、より強く、より豊かな世界になると信じています。それこそが、私が追い求める最終地点なのです。」


 カゲロウの表情は変化しない。彼の反応が見えない中、ルークは不安を抱きつつも、自分の思いを正直に伝えたことに安堵を覚えた。


 しばらくの静寂後、カゲロウは答えた。


「......残念だが、貴殿たちとは協力出来ない。」

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