第9話【岐路に立つオーガたち】

 ザリムが去った後、オーガたちの大広間には一瞬の静寂せいじゃくが訪れた。しかし、その静寂せいじゃくはすぐに打ち破られ、再び激しい議論が始まった。


「降伏するべきだ!」


年長のオーガが力強く言い放つ。


「防衛施設はゴブリンとの戦いで壊滅的な打撃を受け、今のままでは長期的な防衛なんて不可能だ。壁も崩れ、武器の補充もままならない。この状況で籠城なんて、ただの自殺行為だ。」


「それは理解しているが…」


若いオーガが反論した。


「だからと言って、膝をくっするのか?俺たちには誇りがある!誇りを失うくらいなら、死を選ぶべきだ!」


ほこりでは生き残れん!」


年長者は声を荒げ、机を叩いた。


「今の我々には、選択肢が限られているんだ!」


「冷静になれ!」


他のオーガが声を張り上げ、場を取り繕おうとしたが、その声も力なく、議論は泥沼化どろぬまかしつつあった。


 ルークはその様子を見つめ、眉をひそめた。確かに、オーガの集落は今、籠城ろうじょう戦には不向きな状態だった。防衛施設は脆弱ぜいじゃくで、ゴブリンとの度重なる戦闘でさらに弱体化している。


 長期戦になれば、補給ほきゅうも難しくなるのは明白だ。しかし、降伏こうふくという選択肢も暗い未来しかないため、強い反発があり、誰もが迷いと焦りを隠し切れない。


 今は冷静に周りを見直すべきだ。リサや弟達から聞いた地域周辺の情報をもとに、ルークは静かに思案しあんし、周りの地形と敵の配置を頭の中で再構築していた。北にはゴブリンの集落が広がり、彼らの勢力圏はこちらに迫ってきている。


 東には人間の集落があるが、現在は接触が途絶えて久しい。しかし、かつてはオーガと人間の間には友好的な関係があった。何か協力を得られる可能性はないのか、確認する価値はある。


 西には大きな山があり、そこには天狗族がひっそりと暮らしているとのことだ。彼らはかつて魔王軍の諜報部隊としてその能力を発揮していたが、魔人まじんが台頭した際に解任され、以降は隠遁いんとん生活を送っているとのこと。


 天狗族の協力を仰ぐことができれば、情報戦での逆転の糸口いどぐちが見えてくるかもしれない。南は広大な森。未知の領域が広がり、敵か味方かも不明な存在が潜んでいる可能性がある。ルークは一度冷静に判断を下すために、この場から離れることを決めた。


「ここでの議論は堂々巡どうどうめぐりになるだけだ。一旦、弟たちとリサと話し合いたい。2日後の朝にまたこの場所で結論を出すから集まって欲しい。」


 そう言うと、彼は立ち上がり、重苦しい空気が漂う大広間を後にした。


 外に出ると、彼は深呼吸をして頭を整理する。降伏はあり得ない、だが戦い続けるには策が必要だ。情報を集め、そしてその情報をもとに何か打開策だかいさくを見つけなければならない。


 彼は弟たちとリサに目を向けた。


「まず、戦える人間を増やすのと、ゴブリンの内部の情報をもっと集める必要がある。まずは、これから方針について相談させてくれ。」


 自分の思いを伝え、次なる行動に移る決意を固めた。

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