第5話【自分のスキル】

 ルークはよこたわりながら、天井をぼんやりと見つめていた。傷ついた体は鈍い痛みを感じさせるが、頭の中はそれ以上に混乱していた。


 リサの言葉が脳内をぐるぐると回り、現実を認めざるを得ないことが、彼の心に重くのしかかる。ここはかつての彼の知る世界ではなく、魔族と人間が争う異世界だ。そして、自分はオーガ族の頭として、この戦乱に巻き込まれている。


 その現実に対する戸惑いは、あまりにも大きい。これまでの人生、平凡な学生生活を送っていた自分が、突如として異世界に放り込まれ、しかも異種族の頭だという。


 この突拍子とっぴょうしもない状況が、本当に自分に訪れていることに対し、未だにどこか夢の中にいるような感覚が抜けない。


 疑問が次々と頭をよぎる。自分がどうしてこの世界にいるのかも、何をすべきなのかも分からない。そこでふと、自分が持っている力について考えた。


 転生したならば、何かしらの「スキル」や「力」を持っているのではないか?この異世界での自分には、何か魔法のような能力があるはずだ――そう思わざるを得ない。


 もしかすると、この世界で生き抜くための強力な能力が自分に与えられて可能性もあると考えがよぎった。


 彼は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。過去の記憶から、ゲームのように「ステータス」を確認できるのではないかという直感が働いた。


 もし、この世界がゲームのようなルールに従っているなら、自分の能力を数値などで見ることができるかもしれない。そう考えた彼は、半ば試すように心の中で静かに叫んだ。


「……ステータス!」


 その瞬間、ルークの視界に変化が起こった。まるで透明なスクリーンが空中に浮かび上がるように、彼の目の前に情報の一覧が現れた。


 スクリーンは淡い光を放ち、まるで何かの幻影げんえいを見ているような感覚にとらわれる。

 それが現実なのか幻想なのか、彼の混乱はさらに深まるが、その画面に表示された内容に意識を集中させた。


 ・名前:ルーク・オルガノ

 ・種族: オーガ

 ・年齢: 18

 ・職業:ストラテジスト

 ・ステータス:

 ・力:E

 ・魔法力:F

 ・防御力:E

 ・魔防力:F

 ・知略:B

 ・政務:C


 ルークはその数値を見て、言葉を失った。自分の目を疑い、もう一度確認する。しかし表示されている内容は変わらない。


 通常ゲームでは、「G → F → E → D → C → B → A → S」の順番でキャラクターの強さや価値が決まること多い。それに照らし合わせるのであれば、統率・知略・政務はそこそこ高いが、彼自身の力・魔法力が、EやFという低い評価しかついていない。


 彼の心臓は、一瞬にして早鐘はやがねのように高鳴った。これが本当に自分の力なのか?


「恐らく…俺は…弱い…」


 彼の口から自然に漏れた言葉は、衝撃と失望が混ざり合ったものだった。力も、魔法も、期待とはかけ離れた弱さだった。特に、魔法力・魔防力に至っては「F」という最低に近いランクの評価だ。


 異世界で生きる以上、強大な魔法力を持っているのが普通だと思っていたが、このステータスはそれを裏切る。


 彼は、これまで転生ものの物語をいくつか聞いたことがある。そこでは異世界に転生した主人公が、強力な力を持ち、数々の冒険を繰り広げていた。


 しかし、自分にはそのような強さがないのだろうか。最初から協力な力を持っていることを期待していたが、この数値は期待とは程遠いものだった。


 彼は続けて視線を下に移し、スキル欄を見つめた。そこには、興味深いスキルが記載されていたのだ。


 スキル:神の鑑定士かんていし、神の経験値けいけんち


「神の鑑定士かんていし…神の経験値けいけんち…?」


 そのスキルの名前を見た瞬間、彼の心にまた新たな疑問が生まれた。このスキルは、何なのだろう?どうして「神」とついているのか?


 普通のスキルとは違う、もしかすると特別な力を持っているのかもしれないが、その使い方や意味は全くわからない。


「神の鑑定士かんていし」という言葉が示すものは、何かを見抜く能力だろうか?それとも、何かを判断する力か?そして「神の経験値けいけんち」というのは、一体何を意味しているのだろう?


 スキルの詳細がわからないまま、彼の心はさらに迷宮めいきゅうに迷い込んでいく。ルークは、目の前のステータス画面をじっと見つめながら、段々とこの現実を受け入れざるを得ないことを実感した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る