ミサイル

「待たせたな!!」

「オラ!バケモン!」


路地を回り込んでオッサンの元に向かった俺は、さっそく二人で魔獣を挑発する。


「もう腕も上がらねーだろ!」

「おめぇなんざ怖くねぇんだよ!」


ギギギと魔獣がこちらに身体を向ける。

これで奥にいるジェノは魔獣の標的から外れただろうか。

だが幾度も俺に辛酸を舐めさせられたせいか、魔獣も警戒を緩めない。

その場から動かず、こちらを注視するに留める。


「存外かしこいじゃねぇか…」

「本当は襲いかかりたいハズなんだけど…」


ヒソヒソと会話しながらこちらも様子を伺う。


「お前のそのでかい荷物が怪しいんだろうが」

「隠せるサイズじゃないんだからしょうがないだろ!」


オッサンがそう指摘したのは…

俺の背中に括り付けたドラゴンの爪の杭、正確には杭ではないのだが、今はそう呼んでおく事にする。


「俺が魔獣でも警戒するわ!」

「いーやオッサンは脳みそ空っぽだから魔獣だったとしても警戒しないね!」

「俺が魔獣だったらとっくにお前はあの世に行ってるけどな!」

「いーやオッサンは詰めが甘いから逆に今のアイツよりボロボロになってるね!」


馬鹿な喧嘩が始まってしまったが、その馬鹿な喧嘩が功を奏す。

苛立つ魔獣がしびれを切らし、地面を鳴らしながら突進してきたのだ。


「ガァ!!!」

「来たぞ!」

「頼むぞーー!成功してくれよーー!」


魔獣の走り出しと同時に俺は指を二本咥え、息を思い切り吐き出す。


ピュィイイイイ!!!


指笛ってやつだ、場を盛り上げる時に使ったりするあれだな。

前世で憧れてできるようになったが、結局使うことはないままこっちに来てしまったが…

使い道があってよかった…

そして、その指笛を合図にジェノが俺が預けた呪われた剣を俺に向ける。

当然、刃を俺に向けて、そして俺とジェノの間に魔獣来るように位置を調整して。

あとは俺がオッサンから短刀を受け取れば…


「うわわっ!」


ジェノが剣の勢いに身体ごと持っていかれそうになるも、既(すんで)のところで手を離す。


ゥン!!


ミサイルのような勢いで俺に向かって発射された剣は間にいた魔獣の背中に当たり、先端10cm程度が魔獣の体内に入り込む。


「ガッギャ!!」


剣の柄でさえ魔獣の棘を粉砕したのだ、刃なら貫通しても不思議はない。

しかし魔獣も大したもので、その状態からでも咄嗟に身を捩(よじ)る。

そのまま剣は魔獣の背中から脇腹を抉りはしたものの、致命傷には至らぬまま、魔獣を通り過ぎ真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる。


「やべ!」


慌てて持っていた短刀を捨てる。

剣の勢いは急速に弱まり、俺の足元数ミリの所に落下し刺さる。

あと数秒遅れていたら俺のどこかに刺さっていたんじゃなかろうか…


「やっぱりこれでは仕留めきれないか…じゃあお願いします…」

「後で恨み言とかは無しだぞ」


そうなのだ、この作戦はここからが肝である。

一発で仕留められるとは思っていなかった。

だから何度か繰り返すつもりではあるのだが、その為には俺と呪われた剣の位置関係、そして俺が武器を手にするタイミングが重要になる。

俺が呪われた剣以外の武器を装備した瞬間、剣は俺に向かって高速で突き進む。

手に取る以外でも背中や腰に帯刀しただけでも装備と見なされるようで、同様に俺に向かって飛んでくるのがわかった。

これは先程ジェノと軽く実験をしたのだが、その際に使ったジェノのハンマーの柄は俺の剣によりさらに折られ、完全に武器としては成立しなくなってしまった。

つまり、俺は魔獣を挟んだ剣との対角線上に武器を持たない状態で辿り着き、そこで武器を手にする事で呪われた剣の発射を待つ事になる。

一発目はオッサンが武器を持っているのを知っていたから問題無かったのだが、ニ発目以降、移動先にうまく武器があるのかは分からない。

ではどうすればいいのか?


「ぐああああああ!!いっでぇええええ!!!」


オッサンは全く、これっぽっちも躊躇することなく、むしろ何ならちょっと愉快そうに俺の肩口に短刀を突き刺した。


「痛くないとこって言っただろ!!」

「刃物刺さって痛くないとこなんかあるかボケ」


これで肩から短刀を生やした間抜けな男の出来上がりである。

これはさすがに装備とは見なされないようで俺の剣が動く様子も無い。

この状態で目的の場所に向かい、肩の短刀を抜いて合図を出す。

そうすればオッサンの手から呪われた剣が発射されるという寸法だ。


「意表をつく為とは言え…こんな役割ばっかりだ…」

「お前が言い出した作戦だろうが…」


これは余談ではあるが、ジェノが持った時もオッサンが持った時も剣の呪いを受ける事はなかった。

どうも呪いをかける対象は一人だけらしい。

という事は、解呪するか持ち主の俺が死ぬまでこの剣は俺を呪い続けるのだろう。


「頼んだぞオッサン」


そう言い残し、俺は路地に消える。

迂回して魔獣の向こうに向かわなければならないからだ。


「ガッ…ベハ…」


魔獣も明らかに弱っている。

けれどもう完全に俺だけを殺すという目的だけに染まったらしい。

ジェノやオッサンには目もくれず、俺の気配だけを探っている。

短刀の刺さった肩がズキズキと痛むが、大丈夫、全てうまくいっているはずだ。

この路地を抜ければあとはすぐに………


ボガァ!!!ドガン!!


やべえ!見つかった!!民家を壊しながら一直線に俺に向かってやってくる!

追いつかれたら次はない!全力で駆け抜ける!

もう大通り目の前だ!いくぞ!失敗すんなよ!俺!!


ピュィ!ピュィイ!!


俺が大通りに出て、魔獣がそれを捉える。

魔獣の手が俺にかかる寸前に、俺は大音量の指笛を鳴らす事に成功した。

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